このごろ、豆腐屋から大きなかま≠ェ盗まれているらしい。
そんな噂を耳にした豆腐屋の主人は、自分のうちのかまが心配でたまらず、その中で眠って番をすることに。
かまが盗まれるとき、かまがゆれたら目が覚める。そうしたら、中から飛び出して脅かしてやる、と意気込む主人だったのですが……。
幸か不幸か、さっそくかまは盗まれてしまいます。
かまを運ぶどろぼうたちの忍び足がたくみなのか、はたまた、主人の神経がよほど太いのか、主人はぐうすか眠ったまんま、起きる気配はありません。
それどころか自分が盗み出されているとも知らずに、かまの中でいびきをかくわ、あげくのはてに屁はこくわ……。
ほんとにいるのはめっぽう困るが、落語の世界にゃなくてはならぬ。それが、どろぼう! ドジでマヌケがお約束、落語の泥棒噺を題材にした「桂文我のまぬけなどろぼう」シリーズ最終巻です。
今回のどろぼうは、ふたり組。豆腐屋の主人が中で寝ているとも知らずに、かまを盗んでしまいます。はてさて、どんなおかしなことになるのやら。
なんて思っていたら、このふたり、かまを運び出すまでのあいだにもあれやこれやとヘマをやらかす、きっすいのマヌケどろぼう!
そのうえ主人も、負けずおとらずのマヌケぶり。そもそも、かまの中で寝て番をするというアイデアからしてわかってはいましたけれど……だれか、ツッコミの人はいませんか!?
最後に主人は、盗み出された先でかまから這い出し、満天の星空を見て衝撃のひとことをはなちます。
その考えはなかったと、吹き出しつつも膝を打つことまちがいなしのキレイなオチ! そうそう、 やっぱり落語は、こうでなくっちゃ。
(堀井拓馬 小説家)
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