時間ってなんだろう? 未来や過去って、どこにある?
ちいさなネズミのちいさな疑問は、ひとつの失敗からはじまりました。それは、心から待ち望んでいた、チーズの祭典「チーズフェア」でのこと。小ネズミはその日付をまちがえて、一日遅れていってしまったのです。あんなにも楽しみにしていたのに、着いたときにはチーズはどこにもない。悔やんでも悔やみきれない小ネズミは、そこでおどろくべき夢を抱くのです。
時間をもどして過去にさかのぼり、チーズフェアにいくこと!
ありとあらゆる時計の針を逆回転に回してみたり、時計塔の時計に細工をして止めてみたり。それでも、時間はさかのぼるどころか、止まることさえありません。実験と失敗をくり返す小ネズミは、やがて時間の歴史とその性質について学びはじめ、とある人間の存在を知ります。時間について、世界がひっくり返るようなことを思いついたという、その人物。彼の名は、アルベルト・アインシュタイン──
史実とファンタジーの混じる「ネズミの冒険」シリーズ、4作目! 空、宇宙、海底と、様々な場所を冒険してきた、ちいさなネズミたち。こんどのネズミが旅することになるのは、なんと過去の世界! チーズフェアにいくという目的のためにタイムマシンづくりに挑戦する小ネズミですが、それが思わぬ事態を引き起こし、歴史的な出会いをもたらすことに……!
二転三転するストーリーや意外な展開で、映画を一本観たような冒険が味わえるのが、本シリーズのみどころ。本作でもその魅力は健在です。冒険はボリュームたっぷりでページ数も多い本作ですが、文字がなく、イラストだけでその背景を想像させる演出が多く使われていることもあって、テキストの量はそこまで多いわけではありません。
飛行家リンドバーグ、宇宙飛行士アームストロング、発明王エジソンと、各巻ごとに実在の偉人たちがテーマになっているのも本シリーズの特徴です。今作で紹介されるのは、20世紀最高の物理学者と名高い、かのアルベルト・アインシュタイン。
アインシュタインといえば、「特殊相対性理論」や「E = mc^2」の数式で有名ですが、その功績を絵本にするには、いささかむずかしすぎるようにも思えます。ですが本書の巻末では、重力による空間の歪みや、時間が相対的であることを、具体的な思考実験を用いて、わかりやすく解説しています。
実際、わたしは本作に記載された「エレベーターの例え話」を読んでみて、「光の速度はどんな観測者からも一定」であるということが、どうして「時間は相対的」であるということにつながるのかを、はじめて理解できました。なるほど、そういうことだったのか……。
はたして小ネズミは、無事チーズフェアにいくことができるのでしょうか? そして、アインシュタインと小ネズミの出会いがもたらしたものとは? 小さなネズミが時空を超える、シリーズ最高の大冒険!
(堀井拓馬 小説家)
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