インタビュー
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2022.08.25
おまじないの言葉を唱えてバナナの皮をめくると、中からソーセージやソフトクリームが出てくる『バナナおいしくなーれ』、ミカンの皮をめくると、いちご大福やメロンパンが顔をのぞかせる『みかんおいしくなーれ』、ページをめくる面白さを存分に味わえる人気シリーズ「おいしくなーれ」に最新作が登場です。今回皮をめくるのは……秋に食べたくなる「ぶどう」! 「ぶどーる ぶどーる おいしくな〜れ〜」のおまじないで、ぶどうから出てくるものは? 絵本作家・矢野アケミさんに『ぶどうおいしくなーれ』の誕生秘話を伺いました。
みどころ
「ぶどーるぶどーる おいしくな〜れ」これはぶどうがおいしくなるおまじないの言葉。きっとジュージーでぷるっぷるの甘いぶどうが現れるんだろうなと想像しながら「ぶどーるぶどーる むきむきぽん!」とページをめくると、えっ!びっくり!思いも寄らないものが出てきます。
次こそはとまた皮を「むきむきぽん!」。でも現れたものは、やっぱりぶどうとは似ても似つかないもので……。ページをめくるたびに「ちがーう!」「なんで?!」と驚きの声が聞こえてきそうです。でも、そこに現れるのはどれもおいしそうなものばかり。どーなってるの?と思いつつも、「ぶどうじゃないけど食べちゃおう!」ということになるのです。「むちゃむちゃむちゃ」「ふはっふはっ あちち」。楽しくておいしいから、これはこれでラッキーなのかも?!と思えてきます。
楽しい発想で次々とユニークな作品を作り出している作者の矢野アケミさん。小さな子から大人まで大喜びの「おいしくなーれ」シリーズは、バナナ、みかんに続き、今回が3作目となります。ぶどうの皮をつるっとむく、あの気持ちの良い瞬間と、あっと驚くサプライズを思う存分楽しめます。今回も、裏表紙までクスッと笑える作品になっていますよ。ぜひみんなで「ぶどーるぶどーる おいしくな〜れ」と唱えてみてくださいね。
この人にインタビューしました
1973年、愛知県生まれ。幼稚園の頃の夢は、絵本をつくって売る人。子どもの本専門店「メリーゴーランド」(三重県四日市市)主宰の絵本塾に参加。『どうぶつドドド』(鈴木出版)で第22回日本絵本賞読者賞を受賞。その他作品に『ジェリーのあーな あーな』『ジェリーのながーい ながーい』『ジェリーのこーろ ころん』『バナナおいしくなーれ』『みかんおいしくなーれ』(大日本図書)、『ぐるぐるカレー』『ぐるぐるせんたく』『ぐるぐるジュース』『ぺったんこぺったんこ』(アリス館)、『わっかが8ぽんスポン!』(PHP研究所)、『ギョギョギョつり』(鈴木出版)、『ばんそうこう くださいな』(WAVE出版)などがある。
─── 「おいしくなーれ」シリーズ3冊目となる『ぶどうおいしくなーれ』の発売、おめでとうございます。シリーズ第一弾『バナナおいしくなーれ』は、美味しいバナナからこんな食べ物が出てくるなんて!と意外性抜群。ページをめくる度に変化があってとても面白かったです。この『バナナおいしくなーれ』が「おいしくなーれ」シリーズの人気と方向性を決めた作品だと思います。この作品が生まれたきっかけを教えてください。
ありがとうございます! 最初は、2008年に『バナナむいたら』というタイトルのラフをつくって、大日本図書の編集者、當田マスミさんに見せたのがきっかけでした。男の子が家に帰ってきたらテーブルの上にバナナがひと房あって、皮をむいたらキュウリ、さつまいも、かつおぶしなどが出てきて…、みんながバナナの中でかくれんぼをしていたというおはなしでした。
その後のラフでは、男の子をチンパンジーに変えて、バナナの皮をむくとマイクやバット、シャワーなんかが出てくるおはなしにしてラフを練っていったのですが、チンパンジーをデッサンしたりしているうちにチンパンジーそのものにどんどん惹かれて、学術書まで読んだりして……。でも肝心なラフはOKがなかなか出ず、自分でも手直しするアイデアが浮かばなくなって、しばらく放置してしまったのです。
─── 学術書にも手を伸ばすなんて、すごいです! チンパンジーを主人公にしたラフもたくさん生まれたんですね。
それから数年後に當田さんから「くだもの絵本をつくりませんか」とふたたび声をかけていただき、以前のラフを、今度はバナナを主役にして、よりシンプルに作り直しました。しばらく寝かせていたおかげで、チンパンジーに対するこだわりも解けていて「バナナの皮をむくのは絵本の前の読者でいいんだ」と思えたのです。こうして『バナナおいしくなーれ』が生まれました。
─── バナナ、みかんと皮をめくって、今回のくだものは「ぶどう」。3作目のくだものは、ぶどう以外にも候補はありましたか?
ほかに候補はなく、ぶどう一択です!
もともとシリーズで考えていたわけではなく、刊行後に2作目のお話をいただいた際に、「これはもう『みかん』しかないでしょう」と思いました。子どもでも自分の手で簡単に皮がむけて、とても身近なくだものは、ほかにはもう思いつかなかったので。その後、『みかんおいしくなーれ』の刊行後に、さらに3作目のお話をいただいて、とても嬉しかったのですが、じつのところは「いやぁ、もうないかもなぁ」と思っていました(笑)。でも、じっくり考えてみたら、「『ぶどう』ならできそうです〜!」と。
─── 今回もぶどうの中から、アッとおどろく食べ物が次々と出てきます。どの食べ物を登場させるかはどうやって決めているのですか?
やっぱり、「ぶどうから出てきそうなもの」というところは基準にしました。サイズもそうですし、形もあまり変わりすぎないように。そこが何でもありになってしまうと、この絵本としての「おかしみ」みたいなところが変わってしまうような気がしましたし、ウソの中にも現実味を持たせたいという思いがありました。
─── たしかに「本当に出てきそうだぞ……」というのは、実際にぶどうを食べるときも「もしかしたら」と想像できてワクワクします。今回は登場しなかったけど、候補に挙がった食べ物はありましたか?
ミニトマトや、三色だんご、ごまだんご、みたらしだんごも合わせてだんごで攻めているページも(笑)。ネタ帳には、チョコレート、あめだま、にんにく、らっきょう、なんていうのもありました。
─── にんにくに、らっきょう……強烈ですが、見てみたかったです (笑)。みずみずしいぶどうの紫色や、おだんごのとろりとしたみたらし餡のかかっている様子など、出てくる食べ物がとても美味しそうなのも、この作品の魅力だと思います。どんな画材を使って、この美味しそうな食べ物を描いているのですか?
作品によって画材が変わることもあるのですが、ほとんどはオイルペンシルで縁取りと軽く下塗りをした上から、アクリルガッシュで色を重ねて描いています。みたらしだんごは、先に白いだんごにオイルペンシルで焦げ目をつけて、その上からアクリルガッシュで餡を塗り、乾かないうちにその面を筆でなぞって下のだんごの白を洗い出して透明感を出しました。
普段、ほかの作品ではぺったりとした平面的な絵を好んで描いているのですが、「おいしくなーれ」シリーズに関しては、思わず絵本の中の食べ物を手に取って口に運びたくなるような絵にしたかったので、いつもよりはリアルな描き方に寄せています。色に関しては、実物の食べ物と色が少々違ったとしても、印刷された絵がおいしそうにみえることを大切にしています。今回の絵本もおいしそうな色に印刷してくださり感謝です。ぶどうの色なんて原画よりも良いくらい!(笑)
─── 美味しい物の後には、思わず口をキューっとすぼめたくなる酸っぱい食べ物が出てきます。『バナナおいしくなーれ』ではお母さんに、『みかんおいしくなーれ』ではお父さんに、そして今回はおばあちゃんに渡していますね。シリーズを通して読むと、この作品はある家族のおはなしとして考えていらっしゃるのかな?と思うのですが、そのような設定はありますか?
もともと設定があったわけではないのですが、『バナナおいしくなーれ』では子どもが「ゴーヤ食べられない」というときに、やっぱり、まずお母さんに訴えるだろうなと思いました。そして『みかんおしくなーれ』では、じゃあ次はお父さんだなと。シリーズにしていくうちに家族の設定になりました。自分の中では、お父さんはこの後レモンをから揚げに絞って、さらに酎ハイに入れて……と想像しています(笑)。
今回は梅干しをおばあちゃんにあげていますが、この後おばあちゃんは梅干しをどうしたか? なんていうところも、親子で想像してもらえたら嬉しいです。
─── 子どもが苦手な食べ物も大人に渡すことで広がりがでてくるんですね。そもそも、子どもの苦手な食べ物を登場させようと思ったのはなぜですか?
「世の中、そんな甘い話やおいしい話ばかりじゃないよ」という教訓……というのは冗談で(笑)。苦手なものを食べた後に「やっぱりバナナ、おいしいね」と、バナナのおいしさを再確認できるようにしたかったからです。子どもの好きなおいしいものばかりでは、「もうこのままバナナが出てこなくてもいいや!」と思ってしまいますよね、きっと。
─── たしかにゴーヤが出てきた後のバナナは、すごく美味しそうに見えます。おはなしの最後に歯みがき粉などが出てくることもシリーズ共通のポイントだと思います。食べ物絵本にプラスして「歯みがき絵本」の要素もあるのが面白いと思ったのですが、最初から歯みがきを連想する展開を考えていたのですか?
一番初めのラフの中に、すでに歯みがき粉が出てくるシーンがあって、『バナナ〜』の最後のオチにピッタリだと思って採用しました。『みかん〜』でも、「やっぱり歯みがき系なのね!」「おんなじ!」というのが楽しいと思い、液体歯みがきに。でも、『ぶどう〜』で悩みました。キシリトールガムのアイデアが浮かんではいたのですが、大きさがちっちゃすぎるし、絵的にもイマイチ。最後まで良い案が浮かばず、苦肉の策で「おくちスッキリあめ」なんていうのを考えてラフに描いていました。
でも、やっぱりしっくりきていなくて、もともとは本文のアイデアにあったグミを、最後の最後にインターネットで検索してみたのです。そうしたら「キシリトールグミ」というものがあって、しかも、ぶどう味! 「やったぁ!」でした(笑)。
─── この「おいしくなーれ」シリーズ以外にも、「ぐるぐるえほん」シリーズなど、矢野さんの描く絵本にはお腹がグーっとなってしまう美味しい食べ物が登場します。矢野さんご自身も美味しいものが好きなのでしょうか? 特にお気に入りの食べ物があったら教えてください。
私自身は嫌いな食べ物がないのです。子どもの頃はらっきょうと牡蠣が苦手でしたが、大人になってから食べられるようになって、牡蠣フライなんて今では大好きです。何でもおいしく食べられるので、特に好きなのものというと迷ってしまうのですが、毎朝欠かさず食べているバナナとヨーグルト。それから、絵本にも出てくるソーセージは上位に入ります。高校生の頃は部活帰りにコンビニで毎日のようにジャンボフランクを買って食べていました。私が入店すると、レジの店員さんもすぐにジャンボフランクのコーナーに向かうようになって、なおさら注文しないわけにはいきませんでした(笑)。
それから、味はもちろんですが見た目にもスイカとパイナップルが好きです。たい焼きとか和菓子もきれいで好きです。昨年からツイッターをはじめたのですが、おいしそうな和菓子の写真を見ると、ついつい「いいね」を押してしまいます。
─── 矢野さんの幼稚園の頃の夢は「絵本をつくって売る人」なんですよね。とても素敵な夢ですが、どうして「絵本をつくって売る人」になりたいと思ったのですか?
幼稚園生の頃、園をあげてのお店屋さんごっごがありました。それぞれの部屋の中で、アクセサリー屋さんがあったり、ある一部屋はまるごとレストランになったりという、文化祭のようなイベントでしたが、そのとき私は本屋さんをやりました。
商品はそれぞれがつくるので、自分で絵本をつくってお店に並べたところ、本を買ってくれる人がいて、読んでくれる人がいる! という、なんだかむずがゆいような、でも嬉しい感覚を味わってしまって。 当時は絵本作家という職業を知らず、本屋さんが絵本をつくって売っているのだと思っていたので、本屋さんになりたいと思っていたのを覚えています。ちなみに、その時つくった絵本は、当時流行していた都市伝説「口裂け女」の絵本でした(笑)。
─── 口裂け女の絵本! 内容がとても気になります。子どもの頃にお気に入りだった絵本はありますか?
その頃に好きだった絵本は、『からすのパンやさん』、『だるまちゃんとかみなりちゃん』、『おばけのバーバパパ』など。小学生になってからは『やこうれっしゃ』や、幼年童話の『ももいろのきりん』、『スパゲッティがたべたいよう』も大好きでした。
─── 小さい頃から本をたくさん読まれていたのですね。絵本ナビユーザーのお子さんの中には、「おいしくなーれ」シリーズの新刊を心待ちにしているお子さんも多くいます。お子さんたちにどのようにこの絵本を楽しんでほしいですか?
シリーズを通して、おいしくするおまじないが出てきます。最初の頃のラフでは、もっと複雑というか言葉として意味を持たないものでしたが、當田さんにアドバイスをいただきながら、わかりやすくてすぐに覚えられるシンプルなものにしました。絵本を読みながら「おいしくな〜れ〜」と唱えて、どんな食べ物が出てくるか想像して楽しんでもらえたら嬉しいです。本物のくだものの皮をむくときにも!
─── ありがとうございました。これからぶどうが美味しい季節がやってきますね。ぜひ、ぶどうをむくときは「ぶどーるぶどーる」と唱えたいと思います。
文・構成/木村春子