「もったいないことをしていると、もったいないばあさんがくるよ!」そう言われたら、子どもも大人も、首をすくめてどこからかもったいないばあさんに見られているような気がする・・・。今や発行部数85万部のベストセラーとなった「もったいないばあさん」シリーズ、10周年記念の絵本ができました。『もったいないばあさんの てんごくと じごくのはなし』です。
新作原画にくわえ、キャラクタ―誕生初期のラフなど、とっても貴重な品々を本邦初公開! 絵本ナビの読者にだけちらっとお見せしちゃいます。もったいないばあさんのヒミツがわかるかも!?
それではもったいないばあさんの世界へどうぞ!
- もったいないばあさんの てんごくと じごくのはなし
- 作:真珠 まりこ
- 出版社:講談社
もったいないばあさんが、こんどはちょっとこわそうなところにやってきたよ。そこでは、なが〜いスプーンを使って、我先にとスープをのもうとしています。ですが、だれもうまくのめません。そこへもったいないばあさんがやってきて……。思いやりの心をもって分け合えば、もったいないことなくなるよ、とおしえてくれます。
Q もったいないばあさんって、どんなおばあさん?
A もったいないこと見つけたら、いつでもどこへでも、「もったいな〜い」と言ってとんできて、どうしたらもったいなくなくなるかをおしえてくれる。知恵を伝えるおばあさん。
Q もったいないばあさんって、どこに住んでるの?
A 都会のまんなかでも山奥でもない、みんながいる場所の近くかも。 いろんな所にでかけて、もったいないことしてないか見てまわっています。こんどの絵本では、天国と地獄へ。
Q いつもかわいいかんざしをしてる!
A これは、もったないばあさんが七五三のときにもらった、かんざしです。かわいいお花がお気に入りで、ずっと長く大事に使っています。この花模様は、もったいないばあさんのトレードマーク。
Q 首にまいている布はなに?
A スカーフとしても、風呂敷としても使える便利なもの。
Q どんな服を着ているの?
A 動きやすいようにもんぺをはいています。かっぽう着のポケットには、輪ゴムが。
Q もったいないばあさんは、こわいおばあさんなの?
A きびしいことも言うから、一見こわいと思われがちだけど、ほんとうはこわくない。「もったいない」は感謝の気持ちと思いやり。けちんぼとはちがいます。「もったいない」の心には、愛がいっぱいつまっていて、ほんとは、やさしいおばあさん。
●もったいないばあさん、くるよ!
───実は、絵本ナビのトイレに「もったいないばあさん」がいるんです。もったいないばあさんの小さな顔が貼ってあるんですけど、いつもじろっと見られているような気がして、つい紙を使いすぎちゃいけない、水を流しっぱなしにしちゃだめだと、すご〜く目線が気になっちゃうんです!
そうなんですか(笑)。
───幼稚園・保育園で子どもたちが踊る「もったいないばあさん音頭」(真珠まりこ:作詞、中川ひろたか:作曲)でも、すっかりおなじみ。「♪もったいない もったいない もったいないことしてな〜いかい?」「もったいないばあさん、くるよ〜♪」と歌が聞こえてくるとドキドキしちゃいます。えっ、くるの!?って(笑)。
「もったいないばあさん」のキャラクターは、いつ、どのようにして生まれたんですか?
10年前、2004年の秋に、絵本『もったいないばあさん』として出版されたのがはじまりです。
翌年には朝日小学生新聞で「もったいないばあさん」、毎日新聞で「もったいないばあさん日記」の連載がはじまりました。ちょうど、ワンガリ・マータイさん(アフリカ女性初のノーベル平和賞受賞者)が「もったいない」の日本語に感動したことからMOTTAINAI運動がはじまったのもこの頃。マータイさんとはその後何度か対談させていただきました。
2008年からは「もったいないばあさんのワールドレポート展」で全国各地を巡回。もったいないばあさんをガイド役に、世界で起きている問題と日本の私たちがどのようにつながっているのかを伝え、どうすればみんなで平和に幸せに暮らして行けるかを考えよう、というメッセージを発信しています。「もったいない」は世界平和につながるコンセプトだとマータイさんも話しておられ、わかりやすくすばらしい活動だと励ましていただきました。
───絵本からどんどん広がっていったのですね。絵本『もったいないばあさん』をつくろうと思ったきっかけは何でしたか。
取材時には「もったいないばあさん」も来てくれました!
きっかけは、自分の子に「もったいないから、のこさないようにたべようね」と声をかけたとき、「もったいないって、どういういみ?」と聞かれたことでした。
息子は当時4歳。これは農家の人がいっしょうけんめい作ってくれたお米や野菜で、お父さんががんばって働いたお金で買って、お母さんがお料理して…と、説明しようとしたけれど、長い話を聞いてもわからない年齢ですよね。途中までは聞いていたみたいだけど、説明し終えて「・・・わかった?」と聞くと、「わかんない」って(笑)。
───まだ4歳ですものね(笑)。でも、幼稚園や保育園でもそろそろ年長さんだし、もったいないの意味をわかってほしいと親は思いはじめる時期・・・。よくわかります!
ええ。だからそんな息子にも「もったいない」ってどういうことか、わかってもらえたらいいなと思って作ったのが、『もったいないばあさん』でした。
───主人公は「ぼく」と「もったいないばあさん」。「ぼく」は、もったいないばあさんによくおこられるけど、いろんなことをおしえてくれるばあさんがだいすきなんですよね。
最初に読んだとき、あれっ、このおばあさんは、「ぼく」のおばあさんじゃないの?って思いました。
男の子のおばあさんじゃないんです。おばけでも妖怪でもないけど、どろろ〜んと出てくるようなイメージがあったかもしれませんね。このおばあさん、どこからきたんだろう、という感じ(笑)。
───「おさらのうえのたべのこし おちゃわんについたごはんつぶ もったいなーいといってくるよ」「みかんのかわ をすてようとしたら もったいなーいといってくるよ」 みかんの皮をお日さまに干して、お風呂に入れたらぽかぽかのみかん風呂になることを教えてくれたあと、おばあさんは自分の家に帰ってしまいますもんね。「くらくなったら ねるだけさ」と。シンプルな言葉と絵なのに、大人も身につまされます。
うちの母親や祖母のように戦争を経験した世代は、もったいないばあさんと同じで、「もったいない」が自然に身についていて、私も「もったいないよ」と言われて育ちました。切り詰めた生活をしているわけじゃなくても「人参、そんなに厚く皮むいて。もったいない」としかられることが当たり前。だから、とくに説明しなくても、自分の子にも「もったいない」の感覚は伝わるものだと思いこんでいたんです。でも、そうじゃない。
そのとき、私自身が「(ごはんを)残してもいいから、はやくして」と子どもを急かしたり、物が壊れても「いいじゃん、また買えば」と思うほど、修理するより買ったほうが安いものがあふれていることに気がつきました。あぁそうか、子どもが「もったいない」の意味がわからない生活をしていたのかもしれない、と。
───たしかに「買えばいいじゃん」と子どもに言われるほど、ドキッとすることはないですよね・・・。
子どもたちが「もったいない」の意味がわからないまま大きくなってしまったら、社会はどうなるんだろう、とこわくなりました。自然やいただくいのち、ものや人への感謝の心をみんなが忘れてしまったら・・・。これはダメだ、ちゃんと「もったいない」を伝えていかなければと強く思いました。
●もったいないばあさんのモデルは観音様
───幼い息子さんに「もったいない」をうまく説明できない。その経験から誕生した「もったいないばあさん」。
息子さんの反応はいかがでしたか?
コピー用紙にマジックで描いて紙芝居のように読み聞かせてみると、「もういっかい!」「もういっかいよんで」と、何度も言ってくれて、すごく気に入ってくれたようでした。寝る前にくり返し「これ読んで」と持ってくるお気に入りの一冊になりうるかも……これはいいアイデアだと思い、ダミーを出版社に持ちこんで、編集者さんに見てもらいました。
───編集者さんはどんな反応でした?
出版できるかもしれないけど、この絵のままではダメだと言われました。「もったいないばあさん」って一度聞いたら忘れないくらいインパクトのある名前だから、それに見あうだけのインパクトのあるキャラクターの絵を考えてきてください、と。
家に持ちかえって、しばらくどうしたらいいだろうと考えていました。あるときテレビを見ていたか、写真を見ていたかわからないんですけど、観音様の顔を見た瞬間「あっ」と思ったんです。観音様の目は、半分開いたお目め、半眼ですよね。どこを見ているかわからないけど全部見ていて、もったいないことしていたら、どこからともなくとんでくるよ、見ているよ、っていう目。これはぴったりなんじゃないかなと。
───観音様と言われてみたら・・・この半眼はなるほど!です。この目のインパクトは大きいですね。
こわいけどなぜか気になるおばあさんみたいです(笑)。
言葉が稚拙で、長い文章を理解するのがむつかしい小さな子どもたちも、心で思うようにイメージで理解することはできると思うし、『もったいないばあさん』を読んで、なんとなく意味がわかってくれたらいいなと思って作りました。
「この本は、お母さんがもったいないの意味を伝えるにもいいし、子どもたちが繰り返し読みたいと思う、絵本としての魅力もあると思うんです」と、持ちこみのときがんばって言いました。
(ここで、初代編集者さん登場! 持ちこみ当時のラフを、探してきてくださいました。)
本邦初公開!最初のラフ画。「ちょっとはずかしい・・・」と真珠さん。今の「もったいないばあさん」のほうが若々しい!?
「ぜんぶ見ているよ」という半眼が決まってからのキャラクターラフ。ストーリーや展開は、最初からほぼ変わっていません。
変化があったページはほんのいくつか。かいじゅうスーツは男の子でなく、もったいないばあさんが着る絵に。
───わーっ、やっぱり「もったいないばあさん」の姿はだいぶ違いますね!
半眼の「もったいないばあさん」というキャラクターが生まれて、絵本を出版してみたらなんとベストセラー。ここまでヒットすると思っていましたか。
左端が現編集者・渡邉さん、そのとなりが初代編集者・塩見さん。右端が真珠まりこさん。
(初代編集者):いえ、最初はあまり期待させすぎてしまうといけないので、厳しめに言うんですが、「もったいないばあさん」はおもしろいなと思っていました。でもまさかここまでヒットするとは・・・。
───シリーズ化の予定ではなかった?
(初代編集者):最初は、その予定ではなかったです。新人さんが出版されるときの、一般的な発行部数でスタートしました。でも、発売後2ケ月もしないうちに増刷が必要になりました。メディアの露出もまだほとんどない、マータイさんのMOTTAINAIキャンペーンもはじまる前でしたから、純粋に、本の力だけで売れた感じがして、正直、すごいな、と。