
夏といえば、怪談! こわい絵本! ……でも、tupera tupera(以下:ツペラ ツペラ)さんが生み出す、こわ〜い絵本は、やっぱりどこか、ちょっとヘンテコ? 最新刊『おばけだじょ』(学研)の発売を記念して、ツペラ ツペラさんのアトリエにお邪魔して、おはなしを伺いました。『しろくまのパンツ』(ブロンズ新社)や『パンダ銭湯』(絵本館)など、次々と新しい作品を生み出す、人気絵本作家。でも、ツペラ ツペラさんが、亀山達矢さんと中川敦子さん2人の夫婦ユニットだということはご存知でしょうか? ツペラ ツペラさんの制作のヒミツも探りながら、インタビュー、スタートです。
───新作『おばけだじょ』。オレンジ色の背景の前に真っ黒いおばけが両手を広げている姿がインパクト抜群の絵本。最初、こわい絵本なのかな〜と思って読み進めると、途中にどんでん返しがあり……さすがツペラ ツペラさんの絵本!って思いました。
亀山:ありがとうございます。この絵本は途中の「あれ?」と気づく場面が、肝でもあるのですが、どこまでネタバレしたらいいのか……すごく悩んでいます。
───『パンダ銭湯』も『しろくまのパンツ』もネタバレのところが読んでいてとても気持ちのいい作品ですが、この『おばけだじょ』も、ネタバレ部分が重要なんですね。
中川:読んだ人の年齢や環境によって、絵本のどのあたりで気づくのか違うかもしれませんね。どのページで分かるのか、作り手としてはドキドキする絵本です。
───あまりネタバレしないように、おはなししていただけたら……と思います(笑)。『おばけだじょ』はどういうきっかけで生まれたのでしょうか?

手作りおばけTシャツが、誕生のきっかけ。亀山:3歳になるうちの息子が、おばけが大好きなんですよ。あまりにも好きなので以前、グレーのTシャツにハンドプリントでおばけTシャツをつくってあげたんです。そのTシャツのデザインをぼくがすごく気に入ってしまって、スマホの待ち受けにしていたんです。あるとき、新幹線での移動中にその待ち受けをぼんやり見ていたら、おばけじゃないものに見えてきて……。それからいつも持ち歩いているアイディア帳に本の構成を考えていったんです。
───これがそのとき描いた構成ですね。かなり絵本のストーリーに近い形になっていますね。

貴重なアイディア帳を見せてもらいました。中川:もともと、おばけの絵本を作ってみたいと思っていました。亀山からアイディアを聞いて、おもしろいなと。制作はかなり早くスタートしました。
───ひと目でツペラ ツペラさんの作品と分かる、独特のタッチも多くの人に愛されている特徴のひとつですが、今回は特に新しい技法にチャレンジされているように思いました。
中川:私たちは、基本、紙を切って貼って、作品を作っているのですが、その中でも毎回、どういう風に作るか、変化させることを楽しみながら作っています。
亀山:『おばけだじょ』は、デジタルで作っていると思われるけど、実は、極めてアナログな方法で作っているんですよ。
───え?! 背景のぼかしなど、手描きでは難しい部分がすごくハッキリと出ているので、てっきりデジタルで作っているんだと思っていました……。いったい、どういう方法でこの作品を作ったんですか?
中川:実はこれ、影絵なんです。

原画の撮影風景。
こんな風に絵本が作られているなんて驚きです!───影絵?
亀山:透明のセルに、おばけの切り絵を貼って、後ろに背景となるカラートレーシングペーパーを立てて、一番後ろから光を当てて撮影しています。それだけだと、バックの光源が強すぎてしまい、おばけの顔まで真っ暗になってしまうので、おばけの正面からも光を当てて撮影しているんです。
中川:この光の調節がとても難しくて……カメラマンさんと相談しながら、何度も撮影を重ねました。
───すごい……。アナログな方法で作られているなんて、驚きました。どうしてこういう方法で制作しようと思ったのですか?
中川:絵本の中ではとてもミニマムな世界を描いているので、切り絵だけにしてしまうとシンプルになりすぎてしまう危険性がありました。影絵の技法を使って撮影することで、おばけの持つ迫力や怖さ、はっきりとしないぼわぼわんとした雰囲気を出すことができて、アイディアとすごくマッチしたと思います。
亀山:それと、水の中みたいな雰囲気を出したかったんです。なので、アトリエで試作した時は、実際に透明の容器に色をつけた水を入れて、後ろからライトテーブルの光を当ててみたりと色々、変な実験もしてみました。

アトリエでの『おばけだじょ』試作中の一場面。───制作に入る前から、色々試しているなんて、意外でした……。
亀山:生まれたアイディアを大事に、どう作品に落とし込んでいくかが、ぼくたちが一番、大切にしていることで、それがハマった絵本って、読者の方も楽しんでくれる作品が多いんです。この影絵も、今回初めて試みた作り方ですし、作品に合わせて毎回、色んな可能性を考えて作っています。
───なるほど……。こだわりの技法を使って作った『おばけだじょ』の中で、特にお気に入りの場面を教えてください。
亀山:見返しです!
───見返し……は、表紙をめくった最初に出てくるページですが……。なぜ、見返し?
中川:今回の見返しは最初のページと最後のページのデザインを変えています、最初のページは、目玉にも見える、不気味な形にこだわりました。あと、デザイナーの酒井田成之さんからの提案で、使っている紙も、少しパールがかった光沢とぬめりを感じるものにしているんですよ。
───たしかに、たくさんの目に見つめられているようなちょっと不気味な雰囲気があります……。

ツペラ ツペラさんイチオシの見返しです。亀山:見返しがきちんとハマったときの絵本って、いいんですよ。『パンダ銭湯』も見返しがハマった絵本で、気に入りすぎて、手ぬぐいまで作っちゃった(笑)。そんな風に見返しのアイディアが定着すると、絵本もとても生き生きとしてくるんです。あと、おばけの黒い色も、今回はスーパーブラックという特に黒いインクを使っています。
───スーパーブラック、名前だけでも、かなり黒いイメージがあります。
亀山:印刷用のインクは、シアン(青)、マゼンタ(赤)、イエロー(黄)、ブラック(黒)の四色をかけ合わせて、色を出すのですが、『おばけだじょ』では、その4色にスーパーブラックの版を追加しておばけの黒を表現しています。印刷のプロが持っている特殊なルーペを使って見ると、通常見える網点が消えて、べったりと黒が印刷されているのが分かります。
───技法も、色にもこだわりがあって、文章にもかなりこだわっているんだと思うのですが、『おばけだじょ』というタイトルはどうやって生まれたんですか?
中川:実は、「おばけだじょ」は息子がおばけのポーズをしたときに言う口癖だったんです。表紙のおばけポーズをして、「おばけだじょ」って。

───かわいいですね! タイトルの文字もおばけ感があふれていますよね。
中川:タイトルは私の描き文字と、デザイナーの酒井田さんが作ってくれたデザインをミックスして作りました。最近、NHK Eテレの「ノージーのひらめき工房」のコーナータイトルや、ほかの絵本のタイトル文字は私が切り貼りで作ることも多いのですが、楽しくて好きな作業です。
───中川さんのデザインと実際の絵本のタイトルを比べると、ところどころ違いが分かるのが面白いですね。『おばけだじょ』は文章がすごくシンプルですが、1回目とヒミツが分かった2回目で同じ文章が繰り返されていて、その文章と絵の微妙な違いも楽しかったです。文章で悩んだところはありますか?

亀山:「ばあっ!」はなかなか良い言葉が出てこなくて、苦労しました。最初考えたときは、「おばけだじょ」→「たべちゃうじょ」→「つかまえちゃうじょ」→「ふんずけちゃうじょ」という順番にしていたんですが、ちょっと違和感があって、色校の確認をしているときに中川が「ばあっ!」を思いついて、「それにしよう!」って変更しました。
中川:ヒミツを知っている子も、知らない子も、「ばあっ!」の場面でみんなちょっとびっくりするんです。でも、絵本の中のおばけ自身もびっくりしている様に見えて、心情的にも「ばあっ!」があっていると思ったんです。
亀山:あと、最後の「にげろ、にげろ」というセリフも、うちの子がよくいう言葉なんです。
───お子さんとの普段の会話が作品に活かされているなんて、ほんわかするエピソードですね。