●実はデビュー作? 『十二支のおはなし』
───内田さんと山本さんの作品といえば「行事絵本」シリーズ。最初の『十二支のおはなし』のインパクトがとても強くて、そこからのファンも多いと思います。このシリーズが生まれたきっかけを教えていただけますか?
もともと出版社から、内田さんに『十二支のおはなし』をお願いがあったときは、まだ「行事絵本」シリーズではなく、単発の絵本だったと思います。ぼくにとってはこの絵本がデビュー作だったので、当時のことはすごく覚えていますね。もともと「ちゃんがら町」の個展をしたときに、岩崎書店の編集者さんが来てくれて、ぼくの絵を覚えていてくれたんです。それで、「今度、十二支の絵本を作ろうと思うんだけど、内田さんからOKが出たら、絵を描いてみませんか?」と言っていただいたんです。
───『十二支のおはなし』がデビュー作だったんですか? はじめての絵本とは思えない力強いタッチですね。
これでデビューできるって思いが強くて、出てくるキャラクターを全部アップにして描いていました……。最初に、ラフを見せたとき、内田さんから一言「そんなにくどいと、彼女、逃げるんと違う?」ってFAXを頂きました(笑)。要は絵がくどいからもっと引いたらどう?って意味なんですよ。
───なるほど……。
でも、次の日にまたFAXが来て、「やっぱり、引いてしまうと個性が消えちゃうと思うので、このままで良い」と言っていただいたんです。なので、ほぼ、最初の濃い構図のまま原画を仕上げています。唯一、龍のところだけちょっと引きましたけどね。
───それから2冊目が『たぬきのおつきみ』。これも前作同様、濃い〜タヌキたちのおはなしですね。
2冊目でもまだシリーズになっていなかったと思います。3冊目くらいからようやく「行事絵本」シリーズとなって、10年かけて12冊を完成させていったんです。
───『たぬきのおつきみ』のときも、内田さんから何かコメントはあったのですか?
お月見はラフも一発OKだったんですよ。2作目にして、感じがつかめてきたので(笑)。
───『おばけのきもだめし』でもそうですが、夜の色が暗いんだけど青みも帯びていて、すごくふしぎな色をしていると思いました。
夜の色は大体3色で描いています。フタロシアニンブルーという、ちょっと藍色に近い青と、黒、そして白ですね。最近出版した『しんかいたんけん! マリンスノー』(小峰書店)の深海の色も、ほぼこの3色で描いているんです。
───海の底から夜空まで表現できる色なんですね。改めて『おばけのきもだめし』を見ると、デビュー作に比べて、構図や描き込みの細かさなど、どんどんクオリティーが高くなっているように思いました。
初期の頃はやはり、塗りムラがあったりして、今よりも荒削りな部分が目立ちますね。今はよりマット感が出るように、何度も塗りを繰り返しているので、同じ夜の場面でも『おばけのきもだめし』では、より深さが出ていると思いますよ。