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『コウノトリのコウちゃん』かこさとしさんインタビュー&福井県越前市「コウノトリが舞う里づくり」レポート

91歳を迎える今なお、精力的に絵本の制作を続けている絵本作家のかこさとしさん。2017年2月、最新作が出版されました。『コウノトリのコウちゃん』(小峰書店)は、かこさんの生まれ故郷、福井県越前市に暮らす、コウノトリの家族がモデルになっています。
今回、『コウノトリのコウちゃん』の出版を記念して、かこさとしさんにお話を伺いました。さらに、「コウノトリが舞う里づくり」を行っている福井県越前市の奈良俊幸市長へのインタビュー、越前市に飛来しているコウノトリの「みほとくん」と「ゆきちゃん」のレポートもご紹介します。

コウノトリのコウちゃん
コウノトリのコウちゃんの試し読みができます!
作:かこ さとし
出版社:小峰書店

静かな田園地帯に生まれたコウノトリの兄弟の成長と、それを優しい眼差しで見守る村のおとなや子どもたちを描いた心温まるお話。地球の生物がともに楽しく平和に暮らせるように…という願いが込められた絵本。

越前市で過ごした8年間は、私にとってかけがえのない時間でした。

───『コウノトリのコウちゃん』は、山や森に囲まれた静かな森で生まれたコウノトリのきょうだいが、そこに暮らす人々に見守られながら、自然の中で若者へと成長していくおはなしです。
コウノトリはかこさんの生まれた福井県越前市に、大変縁のある鳥だそうですが、以前から、コウノトリを主人公にした絵本を作りたいと思っていらしたのですか?

正直なことを言いますと、自分ではあんまりおはなしを考える才能がないものですから、自分から絵本の題材を見つけるなんていうのは、なかなか難しいものなのです。なので、今まで描かせていただいた絵本というのは、みんな出版社の方からご命令を受けましてね、それで描かせていただいていました。
今回は、2012年に福井県越前市にある、越前市武生公会堂記念館で「かこさとし ふるさとからひろがる絵本の世界展」を開いていただいたときに、コウノトリの施設を見学させていただく機会がありました。そこに同席していた小峰書店の編集者さんから後日、「コウノトリの絵本を描きませんか?」とご提案いただいて、描きはじめたような次第です。

───実際にコウノトリを見学されたことがきっかけで、絵本制作がスタートしたのですね。

見学させていただくまで、コウノトリのことを、ほとんど知らなかったので、コウノトリの保護や生態の調査を行っている、福井県自然環境課の職員の方に案内していただき、越前市にある「コウノトリPR館」でコウノトリについてお話を聞いたり、実際に飼育されているコウノトリに会いに行ってきました。
職員の方のおはなしを聞いて感じたのは、「コウノトリが舞う里づくり」という活動は、単にコウノトリを越前市に呼び戻すためだけのものではなく、コウノトリが暮らしやすいような自然環境を整えるということでした。


絵本の中には、コウノトリが暮らしやすい自然が広がります

これは大変、根気と努力が必要なことです。絵本にも描きましたが、コウノトリは水辺の魚や虫、カエルなどをエサにしています。しかし、戦後、日本の田畑の変化や減少、農薬の問題なんかでこれらの水生生物が少なくなってしまって、コウノトリが暮らしにくい環境を我々人間が作ってしまった。それを元の自然環境に戻すということは、一度人間にとって住みよい、あるいは暮らしのために良かれと思ってやってきたことが、本当は自然にも人間にもあまり良くなかったということを認めて、新たに構築すること。これは、なかなか難しいことです。

でも、越前市や、もうひとつのコウノトリの里、兵庫県豊岡市の人々はこの活動を進める道を選びました。とても勇気のある決断だと思います。その思いを少しでも絵本を通じて、子どもさんたちに知ってほしい。その思いを『コウノトリのコウちゃん』を通じて感じてほしいと思いました。

───絵本にするうえで、特にこだわったところを教えてください。

コウノトリのことを調べはじめてみると、もうすでに、何冊か生物学的にコウノトリの環境や生態を調べて書かれた作品がありました。それなら、私はもう少し小さい子どもさんにも楽しんでもらえるようなおはなしを描こうと思ったんです。それと共に、越前市が目指している、人とコウノトリが共存・共生する地域の在り方のようなものをおはなしの中に盛り込みたいと思いました。

───なだらかな山や森に囲まれた、静かな村で生まれたコウノトリの「コウちゃん」「ゼンちゃん」「タケちゃん」の3きょうだい。この名前は「コウノトリ」の「コウ」、越前市の「ゼン」、武生の「タケ」から命名されているのでしょうか?

そうです。ただ、「コウちゃん」という名前は、このおはなしではじめて登場したわけではありません。
1970(昭和45)年12月に白山・坂口地区に一羽のコウノトリが飛来してきました。そのコウノトリは下のくちばしが折れていたため、餌を上手に食べることができず、地域の人々は「コウちゃん」と名付け、ドジョウなどのエサを与え保護活動をされたそうです。しかし、どんどん衰弱していってしまったため、当時、すでにコウノトリの保護活動を積極的に行っていた兵庫県の保護増殖施設に移送されました。
「コウちゃん」はそこで、国内飼育最長記録となる34年間を生き、1羽の子と4羽の孫を残したんです。

───『コウノトリのコウちゃん』の名前は、その「コウちゃん」にも由来されているんですね。

私は、おはなしを考えている間、同じ「コウちゃん」じゃまずいだろうと思って、最初は違う名前を付けていたんです。でも、編集者さんとやり取りをしていく中で「コーちゃん」という名前になり、いつしか「コウちゃん」に落ち着いてしまいました。「コウちゃん」は越前市の方たちにも大変親しまれているコウノトリの名前なので、この絵本に登場するコウちゃんも、同じように多くの方々に親しまれるようになってほしいと思います。

───かこさんは8歳まで越前市にお住まいだったそうですが、子どもの頃、コウノトリを見た記憶はありますか?

なにせ子どもの頃の話ですし、コウノトリが来ていたのかどうかも、覚えていないんです。ただ、私が生まれてから8歳までの間に感じた、武生の雰囲気やそこに住む人たちの人情味の厚さなんかを、絵本の中に描きたいと思って作品を作りました。

───強い嵐がやってきて、コウちゃんたちの巣が巣塔から飛ばされてしまったときも、村の人々が巣を元の場所に戻してくれるなど、コウノトリと人間の温かい交流が描かれています。絵本には盛大なお祭りの様子も登場しますが、このお祭りも越前市に縁のあるお祭りなのでしょうか?

これは、越前和紙の里・越前市で1500年近く受け継がれている、「神と紙のまつり」の一部を再現しているんです。私も2013年に取材に伺った際に見学させていただきました。その盛大さに心を打たれて、絵本の中のコウちゃんたちと一緒にしたいと思ったんです。


絵本では季節を秋に変えて、祭りの場面が描かれています

───かこさんも子どもの頃、このお祭りをご覧になっていたのですか?

「神と紙のまつり」ではありませんが、幼稚園くらいだったか、三重県から大神楽っていうのが、町に来てね。獅子舞や天狗舞なんかを演じてくれたのは、鮮明に覚えています。すごく面白く、舞台の真ん前に座り込んで、何時間もかぶりつきで見入っていたんです。鳴り物なんかもにぎやかでね。最後は必ず、振り袖姿の女性が日傘をさして、人力車に乗って町を練り歩くんです。それが本当に艶やかで、後をずっと追いかけたりしていました。
気づくと日が暮れてしまって、当時は電灯なんてあまりないから、迷子になりかけて途方に暮れてしまう。でも、顔を上げて、山の稜線を見ると、遊び場だった村国山(※)が見えるんです。「こっちに村国山があるから、家はこっちだ」って言いながら帰路についていました。

※村国山……福井県越前市にある標高239mの山。

───とても活発な少年時代を過ごされたことが、そのエピソードからも感じられます。

そうですね。神社仏閣が多くて、自然が多くて……。わんぱくな子ども時代を過ごすには、一番良い環境だったと思います。我が家は貧乏でしたから、子ども向けの雑誌なんかはもちろんのこと、家の中にも文化的な本は一冊もなかった。でも、外に出ると、田んぼがあって、山があって、そこにトンボだの、メダカだの、おたまじゃくしなど、いろいろな生き物が暮らしている。それを取って遊ぶだけでも、十分な経験をさせてもらいました。

そういう経験があったから、大人になって子どもさんたちと接するようになったときも、実感をもって、自然の中で遊ぶことの大切さを伝えることができたんです。私にとって、越前市で過ごした子ども時代は、とても得難い8年間でした。

───村の子どもたちの吹奏楽に合わせて、カタカタおどりを踊るコウちゃんたち。次第にカタカタおどりが人間たちにも伝わって、コウノトリも人間も関係なく、みんなでカタカタおどりを踊るというラストが、かこさんの望む、自然と人とのあり方のように感じました。

コウノトリというのは、絵本にも描きましたが、とても人懐っこい鳥なんです。鳥のくせに、人間が近づいても逃げていかないから、乱獲されてしまい、数がうんと減ってしまった。でも今、心ある人々の努力によって、コウノトリをはじめ、生き物が暮らせるような自然環境を取り戻そうという動きが起こっている。

小さい視点から見れば、それはひとつの地域の出来事です。でも、もっと広い視点で見ると、自然破壊と生物の絶滅という、世界規模で起こっている問題でもあるわけです。

───たしかに、世界中で問題となっているテーマでもありますね。

元を正すと、これは人間の「社会性」の問題だと私は思っています。社会学などでは人間は地球の生き物の中で唯一「社会性」を持った生き物だと言われます。でも、本当に社会性があるのか?  と私はいつも疑問を感じています。

有史以来、人間が起こす戦争が地球上からなくなったことはありません。私に言わせると、シロアリやミツバチの方が、立派な社会性を持って、揺るぎない社会を築いているんじゃないかと。だから、人間はもっとそういう生き物たちの姿を見て、学ばなければいけない。

『コウノトリのコウちゃん』に出てくるコウノトリも、体は大きいのに、人間が近づいても逃げていかない、非常に稀有な鳥です。なので私はコウノトリを、人間と自然を結びつけるひとつのシンボルとして、人類のお手本にするのが良いのではないかと考えているんです。

───『コウノトリのコウちゃん』を通じて、コウノトリのこと、自然のこと、そして人間のこと、いろいろな考えを、家族で話し合うことができそうです。
今日はありがとうございました。

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かこさとし(加古里子)

  • 1926(大正15)年福井県武生町(現・越前市)生まれ。1948年東京大学工学部卒業。工学博士。技術士。
    民間化学会社研究所に勤務しながら、セツルメント活動、児童文化活動に従事。1959年から出版活動にかかわり、1973年に勤務先を退社後、作家活動とともに、テレビニュースキャスター、東京大学、横浜国立大学などで児童文化、行動論の講師をつとめた。
    また、パキスタン、ラオス、ベトナム、オマーン、中国などで識字活動、障がい児教育、科学教育の実践指導などを行い、アメリカ、カナダ、台湾の現地補習校、幼稚園、日本人会で幼児教育、児童指導について講演実践を行った。
    『だるまちゃんとてんぐちゃん』『かわ』(福音館書店)、『からすのパンやさん』(偕成社)、『富士山大ばくはつ』(小峰書店)など、500冊以上の児童書の他、『伝承遊び考』(全4巻・小峰書店)など著書多数。
    土木学会著作賞、日本科学読物賞、児童福祉文化特別賞、菊池寛賞、日本化学会特別功労賞、神奈川文化賞、川崎市文化賞、日本児童文学学会特別賞、日本保育学会文献賞、越前市文化功労賞、東燃ゼネラル児童文化賞などを受賞。
    現在、科学、文化、教育に関する総合研究所を主宰。

作品紹介

コウノトリのコウちゃん
コウノトリのコウちゃんの試し読みができます!
作:かこ さとし
出版社:小峰書店
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