絵本ナビホーム  >  スペシャルコンテンツ  >  インタビュー  >  どの妖怪に会ってみたい? 「ようかいろく(妖会録)」シリーズ『雪ふる夜の奇妙な話』『夜の神社の森のなか』 大野隆介さんインタビュー

「こわさ」があるからこそ、感じられる世界があるはずです。

───うちの9歳、6歳の娘たちはけっこう恐がりですが2冊とも大好きです。「こわくて眠れなくなる〜!」と言いつつ「すごくおもしろくて好き」と言っています。

こわいといわれるのは、いちばん嬉しい褒め言葉です。今は妖怪が出てくるアニメも漫画も、どちらかといえばみんなかわいい妖怪が多い。かわいい妖怪もいていいけれど、「妖怪」本来の定義に沿った妖怪というか、人間が畏怖の念をもつような妖怪もいていいんじゃないか、いるべきじゃないかと。

「こわい」という感情を呼び起こす妖怪に子どもの頃に出会えず、「こわい」を知らないのは子どもがかわいそうだなと感じました。こわいものを、子どもにもっと知らせてもいいんじゃないかなと僕は思います。ちゃんとこわがることも大事じゃないかなと。

───実際に大野さんには、「読む人をこわがらせたい」という思いもあったのですか?

うーん…、こわがらせたい、です。でもこわがらせたいというより、ドキドキしてほしいかな。びっくりさせたいです。
ドキドキするのは僕も大好きですし、ドキドキから戻って来たときの喜びも感じます。

───『雪ふる夜の奇妙な話』の中でハナコが「見越し入道」に食べられそうになる場面がありますね。そのあとの思わぬ展開にぷっと吹き出しそうになりました。とてもこわい場面のあとに、「えっ」と笑っちゃうような場面があって、それもまた魅力だなと思います。


見越し入道に見つかる!このあと思わぬ展開が…。(『雪ふる夜の奇妙な話』より)


見越し入道につまみあげられる場面。

そうですね。僕の場合「こわさ」から脱出したとき、「よろこび」に近い何かがあります。それは「安心感」かもしれないけれど。ふつうの状態から嬉しいことがあった!というのと、わるい状況からふつうに戻れた!って、似ているなと思っていて、「こわい」も一つの大事な感情だと思っています。
じつは前から絵本を描きたい気持ちはあったのですが、直接のきっかけになったのは、自分の息子たちに、親父の描いたこわいものを残しておきたい、と思ったのがきっかけなんです。

───息子さんがいらっしゃるのですね。

長男が生まれて間もない頃でしたが、ちょっとした体調不良から自分は長生きできないかもと不安になったことがあって…。いつか死ぬことを想像したとき、自分という親父がいなくなっても、「こわい」ものを息子に残しておきたいと思いました。
「悪いことをしたら鬼がくるよ」と昔の人は子どもを叱ったと言いますが、実際に自分の身代わりだと思って、こわい鬼の絵を描きました。結局、病気は大したことはなかったのですが、どんどんこわい絵を描いているうちに、これはもしかしたら本当に絵本が作れるかもしれないと思って、1つダミー本を作って、それを編集者に見てもらうことができました。

───息子さんたちは、お父さんが描いた妖怪の絵本をこわがっていますか?

『夜の神社の森のなか』を描いているときは、今よりまだ小さくて、3歳と5歳くらいだったからかもしれませんが、「おとろし」が出てくる場面はものすごくこわがっていました(笑)。でも息子たちも最初はこわがりましたが、すぐにこわがらなくなりました。1回こわさを経験して、その道を通ると、「こわいもの見たさ」はなくなる気がします。
妖怪は好きで興味をもってくれています。「ゲゲゲの鬼太郎」も「妖怪ウォッチ」も好きで、僕の絵本もその中の1つとして見てくれているみたいです。

…ちょっと話は違いますが、最近「高所恐怖症」ではなく、「高いところがこわくない」という逆の子が増えているそうですね。だから、高いところで危険を冒して、落ちて死んでしまったりする…。僕は子どもに、こわいものを「こわいんだよ」と知らせることも大事だし、子ども自身が「こわい」と感じることも大事だと思うんです。

───たしかに、こわいと感じるのは、危険を察知する大事な感情ですよね。

僕はまっくらな闇が本当にこわい。東京育ちだからかもしれません。東京は街灯がけっこうあって夜も明るいですよね。でも地方に行くと本当に暗い。30年くらい前、友達と千葉の海へ出かけたとき、街灯がほとんどなくて、海の方角も真っ暗だったんです。でも、そのぶん星の数がすごくて感動しました。暗いからこそ見える景色もあるんだなと。そのときの暗さと、星空を見たときの驚きは、鮮明に覚えています。


ケンジが大天狗と見た星空。(『夜の神社の森のなか』より)


ハナコの大切な人? 雪女に凍えさせられていたミチオが目を覚ます。(『雪ふる夜の奇妙な話』より)

───こわいからこそ味わえる感情や、その後に味わえる安心感があるのですね。きっと、ケンジが天狗と見た星空や、ハナコが迎えた明るい朝もそうですよね。「こわい」だけで終わらないものが絵本にはある気がします。
最後に「ようかいろく(妖会録)」シリーズの「くろい絵本」と「しろい絵本」をどのように楽しんでほしいか、絵本ナビのユーザーにメッセージをお願いします。

僕自身、この絵本を子どもが読むと思って描いているけれど、読者は子どもだけだとは思っていません。
たとえば僕の場合、異世界に入り込んで体験できるような、日常とはぜんぜんちがうエンターテインメント作品にすごく救われたり、それらを楽しむことがストレス解消になったりするんです。本・映画・音楽などいろいろありますが、そこにある世界観がリアルに感じられて、入り込める作品であるほど好きです。
だからこの絵本を読む人が、大人でも子どもでも、妖怪の世界に入り込んでくれたらとても嬉しいなと思っています。

映画でも、見るたびに発見があったり「あれ、こんなシーンあったっけ」と思うと、すごく得した気分になって僕はその作品を好きになります。この2冊の巻末には、妖怪の名前と特徴を記した一覧を載せていますが、あえてイラストをつけていないのは、読んだ方に、本の中を探してほしいと思っているからなんです。読み終わったあと、何度でもまたページをもどって妖怪を探してほしい。繰り返し楽しんでいただけたら最高だなと思っています。

───ありがとうございました!


「くろい絵本」と「しろい絵本」で、ぱちり!


巻末には登場妖怪一覧があります!

編集後記

大野隆介さんが “オーノリュウスケ”として装幀・デザインを手がけた作品は、「5ひきのすてきなねずみ」シリーズ(ほるぷ出版)や、『くんくん、いいにおい』などの「ブック・オブ・センス」シリーズ(グランまま社)、「こびとづかん」シリーズ(ロクリン社)、「日本の神話 古事記えほん」シリーズ(小学館)など多数あります。

このたび作家としてお話を伺うにあたり、若干変装してご登場くださいました! 真摯でどことなくユーモアが漂うお人柄と、細密な妖怪世界、その両方をインタビュー記事でたっぷりご覧ください。ちなみに、「ようかいろく(妖会録)」シリーズは続編も構想中とのこと。次はいったいどんな妖怪に会えるのでしょうか。大野隆介さんが描く妖怪ワールド、今後も楽しみです!

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インタビュー・文: 大和田佳世(絵本ナビ ライター)
撮影: 畠山幸

妖怪一覧 & 動画公開中

こちらのページで「ようかいろく」シリーズに登場する妖怪たちを見ることができます。
http://www.yokairoku.net

『夜の神社の森のなか』の妖怪たちが浮かび上がる…動画もあります! ちょっとこわくてドキドキ…。インタビュー中に出てきた妖怪を見つけてくださいね。

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※期間内【2017年11月16日から2017年12月14日まで】にご回答いただいた絵本ナビメンバーの方全員に、 絵本ナビのショッピングでご利用いただける、絵本ナビポイント50ポイントをプレゼントいたします。

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大野隆介(おおのりゅうすけ)

  • 1970年、東京生まれ。グラフィックデザイナー。装丁家の辻村益朗氏に師事し、デザインを学ぶ。絵本、書籍などの装丁、デザインを数多く手がけている。『夜の神社の森のなか』(ロクリン社)は、第50回造本装幀コンクールで日本書籍出版協会理事長賞を受賞した。

作品紹介

夜の神社の森のなか
作:大野 隆介
出版社:ロクリン社
雪ふる夜の奇妙な話 妖会録
作:大野 隆介
出版社:ロクリン社
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