───出版社からの「こうしてほしい」という要望は何かあったんですか?
『どこいったん』はクマが帽子を探していて、いろんな動物たちに帽子がどこにあるか聞いていくという繰り返しの妙が楽しいストーリー。そのラストでクマが「ウサギなんて さわったこともないわ」というセリフ、実は原書では「Eat(食べた)」という言葉を使っているんです。でも、出版社からは日本の読者のことを考えたときには表現としてちょっと合わないので、「Eat」は使わないでほしいと言われました。そこが面白いのにな…と思ったけれど、「食べた」を使わないでクマがウサギを食べたことを匂わせる言葉を探しましたね。「さわったこともない」というラストの言葉を見つけるのに、しばらく悩みました。
───『どこいったん』と『ちがうねん』は、追う者と追われる者の関係が、2冊でうまく対になっていて、それぞれ登場人物も場面も違うんですが、コレクションしたくなる感じがありますよね。
本当にこの2冊はうまいことできていると思いますね。絵を見ると分かるけれど、『どこいったん』は森、『ちがうねん』は深い海なんですよ。どちらも真実が分かった瞬間からガラッと雰囲気が変わる。特に『ちがうねん』は、「とってきてん」という言葉でひきつけておいて、大きい魚がだんだんと近づいてくる描写にドキッとしますよね。絵本だから音楽はついていないんだけど、自然と恐怖の音楽が聞こえてくる感じがしてくるんです。
───『ちがうねん』は「ちゃうねん」ではなく、「ちがうねん」なんですよね。このニュアンスには意味はあるのでしょうか?
───この2作の翻訳絵本は、長谷川さんの今までの作品を比べると異色な感じがするんですが、この作品を手がけたことによって、今後の創作に影響を受ける部分が出てくると思いますか?
それはあると思います。こういう翻訳の仕事以外でも、自作絵本を作っているときも、編集の人とお仕事をしていくと、自分だけでは気がつかない部分を引き出してくれるときがあるんです。以前、『おかあさんの手』(作者: まはら 三桃、出版社: 講談社)という絵本の絵を依頼されたとき、編集者に「長谷川さんの絵は、ときに饒舌ですけど、饒舌じゃない、見えないものを描いてください」と言われたことがありました。聞いたときは「難しいこと言うな」と思ったけれど、その意図を汲んでやっていったら、また違う本ができた。僕は意外と素直なんで、そうやなと思ったらやってみるんです(笑)。そういう新しい面と出会える仕事ができたときはすごく嬉しい。『どこいったん』と『ちがうねん』もそういう作品だったと思います。
───今後も翻訳のお話が来たら受けたいと思いますか?
もちろん。
───ジョン・クラッセンさんはすでに3作目を考えているそうですが…。
へー。次は何出てくるんだろうね……虫か!(一同笑い)
───最後に、絵本ナビ読者の方にこの2冊の面白さ、オススメポイントを伝えていただけますか。
───僕はこの2作はパパがまず気に入るような内容だと思うんですが、お父さんが絵本を読むことに対して、長谷川さんはどう思いますか?
───ありがとうございます! 長谷川さんのライブに今度は娘と一緒に参加したいと思います。
(編集協力:木村 春子)