●詩と子どもの本
───ねじめさんは、子どもに向けて言葉を書くとき、どんなことを意識されていますか?
ねじめ:俺はいつも思うのは、「村田兆治」※かな。やっぱり子どもの前で遠慮しないっていうさ。今投げられる思いっきり速いボールを見せないといけない。力抜くとばれちゃうからね。年々ボールのスピードはなくなってくるんだけど、昔を思って思い切り投げる。「こんなボール見たことない!」ってボールを見せるほうが、子どもはやっぱり驚くよね。村田兆治は、野球教室で140km/hの球を投げるからね。最近は130km/hくらいだけど。
※ 村田兆治…ロッテオリオンズで活躍した元プロ野球の投手。マサカリ投法で215勝し名球会入り
───それは、言葉の強さということでしょうか?
ねじめ:そう。それは、ストーリーとか言葉の難しさじゃなくて、その人の持っている本気を見せるということ。「えー! このおじさん本気でやってるよ」って。そこは、子どもって見抜く力があるからね。
『がっこうのうた』(偕成社)という詩集は、子どもたちの前で朗読すると、本当にウケるんだよね。学校の先生は嫌な顔するんだけど(笑)。
───「おなら」や「うんこ」など刺激的な言葉が出てくる詩がたくさんありますね。「大きな声で読んでみてください」という提案も書かれています。
ねじめ:そうそう。だからね、子どもは先生の反応を見ながら喜んでるの。俺は子どもの野蛮だったり野放図な部分をひっぱり出したいから、こういう詩を一番子どもたちに朗読したいと思ってるんだけど。
こんな話があってね。『がっこうのうた』に、「せんせい たべちゃった」という詩があるんだけど、クラスでとても大人しくて友達ができない女の子が、今までの詩の中で一番面白い詩を発表しようということになって「せんせい たべちゃった」を読んだんだって。その子は、「せんせい たべちゃった」なんて言っていいのかな?と思ったけど、最後に思い切って「せんせい たべちゃった!」って言った。そしたら、クラスで笑いがおきたんだよね。それからその子は、性格的にもみんなと話せるようになったって、先生やお母さんから聞いて、そういうこともあるんだなと思ったね。
───自分の発した言葉にみんなが反応してくれたら、自信がつきますよね。
ねじめ:最近目にする子ども向けの詩は、わかりやすい言葉ばっかりで、子どもはこれの何を喜ぶんだろうとがっかりすることがある。俺のイメージでは、詩を書く人が絵本の言葉を書くんだと思っていたけど、今は関係ないね。詩人で子どもの本のおはなしを書いている人が少なくなっているから。言葉を捻りすぎることが逆に災いすることもあるし、時代が変わってきていると思うけど。
そんな中で、詩人である林木林さんがこれだけ子どもの本を作っているのは、すごいんじゃないかな。
───林さんは、今後、どんな作品を作っていきたいですか?
林:私は、子ども向けの詩集を出したいんです。
ねじめ:今、子ども向けの詩集の存在ってどうなんだろう。
林:そうですね。伊藤英治※さんがお亡くなりになってから難しいジャンルになったように思います。伊藤さんには絵本をお送りしたら感想を送ってくださって。「今度企画があったときはお声をかけさせていただきますね。林さんの詩は好きですから」と言ってくださっていたのですが、それからほどなくして亡くなられて……。一緒に仕事をしてみたい、憧れの編集者でしたのでとても残念です。
※ 伊藤英治…童謡「ぞうさん」のまど・みちおさんや、童謡「さっちゃん」の阪田寛夫さんの全集など、多くの児童書・子ども向けの詩の本を手がけた編集者 2010年に死去
ねじめ:伊藤英治さんとは少年詩集で一冊仕事をしました。伊藤さんみたいな人はいませんよね。まど・みちおさんにも阪田寛夫にも信頼されていましたね。残念です。今は詩集というと、読者も出版社も、みんな身構えちゃうところがあるね。
林:詩集に対する先入観がありますよね…。詩をもっと気軽に楽しんでもらいたいと思っています。
ねじめ:以前、谷川俊太郎さんについて「谷川さんは、どんな作品を書いても一歩先を行っている」と書いたことがあるんですが、大衆より一歩先を行く、そこが一番大事なわけです。みんな半歩先になっちゃったり、二歩先になっちゃったり、はたまた同じ位置にいたり。子どもに向けた仕事は、足並みを同じに合わせてちゃ読者はつまらないんだ。逆に先に行き過ぎても今度は難しいと思われて読んでもらえない。一歩先というのは、為になったり、自分もやりたくなったり、びっくりさせたり、その辺がお客さんの求めているものなんだけど、それを書くのは本当に大変なことなんだよね。
林さんには、一歩先を行こうという意欲があるのが良い。時にはちょっと先に行きすぎてしまうこともあるかもしれないけれど、それでもいいと思う。前に行っていないものがあまりに多いからね。
林さんは初めて会ったときから、どこかに創作に飢えたようなところがあって、今も変わらないね。
林:今も必死です。
ねじめ:林さんは、振り返らず次々と進んでいくタイプかなと思うので、これからも楽しみにしています。
俺はもうどっかで、ねじめ正一っていう名前に甘んじているところがあるから。でも俺もやっぱり詩を書きたいよね、一番。現代詩の、めちゃめちゃなやつ!
───最後に、林さんから絵本ナビ読者へ『ダジャレーヌちゃん 世界のたび』をどんなふうに楽しんでほしいか、メッセージをお願いします。
林:だじゃれ詩は、声に出して読むと楽しさが倍増します。言いにくいダジャレや、早口っぽいところも含めて、面白がってほしいと思います。自由にメロディをつけて歌ったり、今日はこの国に行ってみよう、と1つの見開きをじっくり楽しんでみるのもよいかもしれませんね。絵本を読んで遊んでいるうちにその国の名所や名物を学ぶこともできます。意味がわからない言葉も、リズムにのって唱えるだけできっとおもしろいでしょう。ダジャレーヌちゃんとダジャレで旅をして、いろんな文化に触れてみてください。この絵本を通じて、親子で笑いあい、心和む時間が生まれたらこれほど嬉しいことはありません。
───ありがとうございました!
進行:常松 心平(303 BOOKS)
インタビュー・文:掛川 晶子(絵本ナビ編集部)
撮影:吉住 佳都子
協力:ブックハウスカフェ