『あかり』や『ひだまり』(ともに光村教育図書)など、心に深く残る抒情的な作品から、『おちゃわんかぞく』(白泉社)『こけこっこー』(鈴木出版)など、言葉遊びの面白さが詰め込まれた絵本まで、多彩な絵本の文章を手がける、詩人の林木林さん。新作絵本は、ダジャレとおしゃれが大好きな女の子「ダジャレーヌちゃん」がダジャレで世界を旅する、“だじゃれ詩(うた)”絵本!
発売を記念して、林木林さんが尊敬する、現代詩人で小説家、たくさんの子ども向けの詩や児童書の作家である、ねじめ正一さんとの対談が実現しました。
子どもの本の世界で言葉を紡ぐおふたりが語り合った、絵本ナビ初の詩人対談、いったい、どんな話が飛び出すのでしょうか……?
ダジャレとおしゃれが大好きなダジャレーヌちゃんが、空飛ぶトランクのトラさんとなかよしの小鳥のコトリンと一緒に、世界の国々を旅する絵本です。それぞれの国で、ダジャレーヌちゃんはクスッと笑える「だじゃれ詩」を口ずさんでいます。
●だれもが楽しめる詩を
───おふたりの出会いは、「詩のボクシング」※と伺いました。ねじめさんが初代チャンピオン、2代目が谷川俊太郎さん。林木林さんは第4回全国大会(2004年)のチャンピオンです。ねじめさんは、初めて林さんを見たときのことを覚えていますか?
※ 詩のボクシング…リング上で自作の詩を朗読して、どちらがより聴衆の心に届いたかを競うイベント。NHKで全国放送され、人気を博した
ねじめ:初めて「詩のボクシング」で林さんを見たときに、きっとなんでもできる子なんだなあと思いましたよ。すごく緊張していたけど、もうやっちゃえば堂々としていてね。 表現意欲と、一方でサービス精神を感じました。現代詩というのは独特な世界で本も売れないしね。現代詩をやっていると、その延長みたいなものが捨てきれないことが多いですが、林さんは、初めから本を売っていかないといけないという意識があった人だと思います。
───テレビで「詩のボクシング」の林さんの朗読を拝見しときは、言葉の力と張り詰めたオーラに、目が離せなかったのを覚えています。
林:後日、「微妙にビブラートがかかったあの朗読の仕方は、ちょっと他の人には真似できませんよね」と言われたんですけど、それは緊張して声が震えていただけなんです。
ねじめ:朗読のパフォーマンスだから声で決まる部分もあるけど、その人の肉体を通っている言葉か、そうでないかは、声に出すとわかりますよね。この人の肉体があるからこの言葉が出てくるという。林さんの言葉は、聞いていてちゃんとその肉体を通っている感じがした。
───ねじめさんは、林さんが出版された詩集『植星鉢(ぷらねたぷらんた)』(土曜美術社)の栞に文章を寄せられています。林さんについて「体力が見えてこない」という表現をされているのが印象的でした。
体力をすっぽり包み込んで
林木林は
最後までリングの上で立っていた
体力の尻尾さえも見せなかった。
それは見事であった。
(『植星鉢(ぷらねたぷらんた)』栞より抜粋)
ねじめ:「体力」って「日常」だから、見えすぎない方がいい。林さんは透明性があって、人前で立って違和感がない。朗読もだんだん引き込まれるっていうのがあるんですよ。
ただ、当時の林さんは、どういうことをやりたいのか掴みどころがなかったね。逆に今聞きたいけど、あの頃1番何がやりたかったんだろう?
林:うーん…、やっぱり詩ですよね。
───ねじめさんは、詩のボクシングで林さんにサービス精神を感じたとおっしゃっていましたが、林さんは「大衆に向けた詩」への意識が当時からあったのですか?
林:私は、初めから読者を意識した上で詩をやりたかったんです。現代詩の世界とは求められるものが少し違っているかもしれないのですけれど、普段あまり詩に親しまれていない方にも読んでもらえる作品、いろいろな人の心に届くような作品を発表していきたいと思っていました。そのために、他のジャンルで詩に近い形で言葉が書ける仕事は何か探ったり、演歌の作詞家を目指したりしたこともありました。その後、詩的な言葉を絵本に活かしたいと思い、絵本の世界に飛び込みました。
ねじめ:とにかくすごいパワーですよ。私なんかは、いろいろ目配りしながらあれもこれもとやっていますが、林さんは、今は子どもの本に、脇目もふらず進んでいっている、その覚悟がね。今まで何冊くらい出版しているの?
林:絵本では、翻訳も入れると50冊くらいです。
ねじめ:もうそんなに出しているんだ。50冊は、すごいね。
───新刊『ダジャレーヌちゃん 世界のたび』も、言葉遊びの楽しさが詰まった林さんならではの作品ですね。ダジャレーヌちゃんという女の子が、世界を旅しながら、その国にちなんだダジャレの詩「だじゃれ詩」を歌っていきます。名所・名物にちなんだダジャレがいっぱいで驚きました。
ねじめ:この本のダジャレを作るときは、逆引き辞典なんかは使ったの? それとも自分にある言葉の範囲で作っている?
林:特に何も使いませんでした。今回、自分的にかなりこの絵本のために向き合って作っています。
ねじめ:「エッフェル塔」のダジャレ、面白いね。「エッフェンと むね はる エッフェルとう」なんていうのは、なかなか出てこないよ。
林:エッフェル塔をなかなかダジャレにしないですよね。だけどフランスの国をテーマにダジャレを作るとなると、エッフェル塔は入れないといけない。国ごとに絶対に取り上げないといけない言葉と、ダジャレにしやすいけれど子どもになじみが薄かったり知名度が低かったりして使えない言葉があります。そのあたりの兼ね合いが難しかったです。なかには読者から「無理矢理なダジャレ」と言われるものもあるかもしれないですね。
ねじめ:単純に楽して出してないのがわかる。困ったときに出てる感じ、苦し紛れなのがいいんだよ。きちんと粘って、ダジャレで逃げるんじゃなくて、ダジャレで突っ込んでいくパワーがあります。
───ちょっと苦しいダジャレのほうが笑えたり、わかったときに気持ち良かったりしますよね。ドイツ、フィンランド、ロシア、エジプト、ケニア……、14か国の国それぞれのだじゃれ詩がありますが、特にどんなところが大変でしたか?
林:やはり、名所や名物を入れてダジャレを作っていくのはそれぞれの国で難しかったです。なおかつ、詩の形式を持っておはなしが流れていくので、前後のつながりを考えて作らないといけないですし、もちろんリズムも必要です。
ねじめ:ロシアはロシアにちなんだダジャレじゃないといけないからね。「チャイコフスキー ちゃいこうに すき」! これはもうちょっとダジャレ頭になってますね。
───「チャイコフスキー ちゃいこうに すき」(笑)、口に出して言いたくなります。
ねじめ:絵も隙間なくぎっしり描きこまれていて、絵の中からダジャレーヌちゃんを探せるようになっているんだね。
───ダジャレーヌちゃんが、国ごとに、その地域の服を着ているのも、みどころですね。
画家のこがしわかおりさんの描く風景やそこで生活する人たちが、とてもいきいきとして、ページを見ているだけでも楽しいです。
ねじめ:林さんが絵描きさんを巻き込んでいるのを感じるね。絵もダジャレのパワーに負けまいとしてるんじゃないかな?
───絵のなかに描き文字で書かれたダジャレもあって、すみずみまで見ごたえがあります。
林:それ以外にも、言葉としては載っていないけれど、絵の中にひそかにダジャレが組み込まれている場所があるんです。絵をじっくり見て、もしかしてこれもダジャレかも? と、想像してみるのも面白いかもしれません。
───この情報量と熱量は、ダジャレと絵の相乗効果で出来上がっているんですね。 いろんな国を旅したダジャレーヌちゃんは、最後に日本の文化にも目を向けます。だじゃれ詩の連なりが、物語のようにひとつの世界観を作っているのも特徴的ですね。
ねじめ:ダジャレの絵本で、ダジャレをメインで押し出しているものはよくあるけれど、この絵本は、たくさんの要素を同じ力で手を抜かずに押し出しているのがすごいよね。ダジャレでここまでやれるのは、いいんじゃないの?