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きみとぼく

きみとぼく(文溪堂)

谷口智則さん最新刊 全然違う「きみ」と「ぼく」の物語

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『14ひきのぴくにっく』で描いた、わたげの意味

14ひきのぴくにっく
作:いわむら かずお
出版社:童心社

春です。おべんとうを作って、みんなで野原へピクニックに出発。おひさまぽかぽか、花もいっぱい。

───先ほどもお伝えしましたが、『14ひきのぴくにっく』は、子どもと読んで、本当に感動した作品です。今日、美術館で原画を見る機会を頂けて、タンポポのわたげが飛ぶ場面が、明らかに下から見ないと見えない構図で、そこに改めて感動しました。

わたげが飛ぶ場面を野ネズミたちの目線にしたのには意味があるんです。「ふわふわ わたげ、どこ いくの? あおい そらに たんぽぽの たね、まきに いくの?」という言葉は、タンポポの花よりも上にある人間の目線では出てこない言葉なんですよ。野ネズミの目線だからこそ、真っ青な空に、白いわたげが飛んでいる様子が見えるんです。これはぼく自身も地面から植物を見るようになって感じたことですが、タンポポは花が終わると茎をぐんぐんのばし、その先にわたげを開きます。自分の種を出来るだけ遠くへ飛ばそうというタンポポの意志なんです。命をつなげていく生き物としての命の営みなんですよね。




自然への気持ちに変化が…『14ひきのおつきみ』

───実は、絵本ナビユーザーの中でも、特に人気があるのが『14ひきのおつきみ』なんです。

14ひきのおつきみ
作・絵:いわむら かずお
出版社:童心社

今夜は十五夜。みんなで、木の上にお月見台を作って、ごちそうも並べて、お月見です。


これもずいぶん長いこと考えていた作品ですね。自分でも充実してできた絵本だなと思います。実はこの頃に、「トガリ山のぼうけん」(理論社)の構想を練っていて、自然の中の不思議や自然への畏敬の念、カミの存在などについて考えるようになってきた時期なんです。

───いわむらさんは月に神のような存在を感じられたんですね。

西洋では死や不吉を表すマイナスイメージに捉えられる月ですが、日本をはじめアジアの国の中には、月に対する捉え方に「実りをもたらす」という考えがあるんです。例えば、夜露はお月さんから降りてくる。そして夜露が作物の生長を促す…。お月見の行事もそういう、月の神秘な力と実りに対する感謝の気持ちから来ているのかなと感じるようになりました。

───『14ひきのおつきみ』の中でも「おつきさん ありがとう」と月への感謝を捧げる場面が出てきていますよね。

それがこの絵本で、一番書きたかった言葉でしょうね。でもこの絵本はお月見台を作るところから始めました。

───何でも自分たちで作り上げる場面は、「14ひき」シリーズならではですね。いわむらさんご自身もお月見台を作ったことがあるんですか?

子どものときに作りたかったんですけど、うまくできなかったんですよ。だから、野ネズミたちにそれを実現してもらったんです(笑)。
読者はくんちゃんと一緒に木の上に登っていく。それから、お月見台をつくり月が出るまでの間は夕方から夜への変化。太陽そのものを描かずに、空気を描くことで去っていく昼を描いたのです。そして最後に月の出の感動と月への感謝。『14ひきのおつきみ』はこの3部構成でできている作品なんですよ。

───ページをめくるごとに変わる空の色の美しさや、月が出るまでのゆっくりとした時間の流れが、お月様に対する感謝の気持ちを盛り上げていくんですね。


この作品を作ろうと考えてから、夕方から夜にかけての変化をどう描くか、3年くらいずっと考えて、夕方の空気を観察していました。日によって、季節によって、天気によって、それは違いますからね。



さわやかな渓流の表現「14ひきのせんたく」

14ひきのせんたく
作・絵:いわむら かずお
出版社:童心社

晴れわたったさわやかな朝、14ひきは川原でせんたくです。大きなシーツも、みんなでごしごし……。

───『14ひきのせんたく』で描かれている水が本当に涼しげで気持ちよさそうなんです。いわむらさんは実際に川で洗濯をされた経験はあるんですか?



それはさすがにないけれど、我が家は子どもが5人もいたから、特に洗濯は大変でしたね。でも、「14ひき」だったらどうするかなーって考えて作ったのがこの作品です。急な流れや、ゆるやかな流れ、淀んでいるところなどの水の変化をどう描くか、しきりに水の観察をやりました。

───このときも川の観察には行かれたんですか?

そうですね。いろんなところにでかけました。同じ谷川でも季節や天候、まわりの植生、川底を形成してるものなんかで、全然表情が違うんです。このときも3年ぐらい観察を続けていましたね。

不思議な命の祭 『14ひきのあきまつり』

14ひきのあきまつり
作:いわむら かずお
出版社:童心社

子どもたちとおばあちゃんが森の中でかくれんぼをしていたら、ろっくんがいない! さがしていると。

───今回、インタビュー前に改めて「14ひき」シリーズを読み返して、一番衝撃を受けたのがこの『14ひきのあきまつり』でした。とても幻想的で、不思議なおはなしですよね。

びっくりしたでしょう(笑)。秋が深まってくると雑木林の様子が変わってくる感じがして、その答えをずっと探していました。秋は生き物たちの祭の季節なんです。命が終わる者たち、休息に入る者たち、動物、植物、キノコたちがいのちをたたえ、カミに感謝する祭をやっている。

───絵本で描かれるのは、すごく華やかでパワーのあるお祭りなんですけど、強い風が吹いた瞬間に静かになって、前のページと同じ場所なのに違う世界のように見えるんです。

秋は実りの季節だけど、その一方で命を終えて、次の世代へと命を引き継ぐ、そういった仕組みの素晴らしさと不思議さを描きたかったんです。

唄ってほしい『14ひきのこもりうた』

14ひきのこもりうた
作・絵:いわむら かずお
出版社:童心社

夕方です。おふろに入って、夕食のシチューを食べて、そろそろねる時間。こもりうたも流れて……。

───『14ひきのこもりうた』に出てくるお風呂も、いわむらさんが実際に作られたお風呂なんですよね。

もうこれはライフワークみたいなもんでね(笑)。ちょうどお風呂場を直さなきゃいけない時期で、せっかくならと大工さんに絵本の下描きを見せて「これと同じお風呂はできますか?」と聞いたんです。そうしたらできるっていうから、お願いしました。絵本の完成はお風呂場ができてからなんで、お風呂場を見ながら下絵を直し、原画を描いたんですよ。

───そして絵本のテーマである子守唄の場面は、一緒に眠ってしまいそうなくらい心地良いですよね。

子守唄は以前からお付き合いのあった、寺島尚彦さんに曲を付けてもらったんです。♪〜ざわわ ざわわ ざわわ〜♪の「さとうきび畑」を作詞作曲されたことで有名な方です。
ぼくの最初の孫は、この子守唄で寝かしつけたんですよ。

───読者の方にも、絵本を読むときはぜひ子守唄部分は唄ってほしいですね。

とってもシンプルでやさしいメロディだから、すぐに歌えると思いますよ。子どもを寝かしつけるつもりで歌ってみると、とっても気持ちいいですよ(笑)。

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いわむら かずお

  • 1939年東京生まれ。東京芸術大学工芸科卒。主な作品に『14ひきのあさごはん』(絵本にっぽん賞)など「14ひきのシリーズ」、エリック・カールとの合作絵本『どこへいくの?To See My Friend!』(童心社/アメリカ、ペアレンツチョイス賞)、『ひとりぼっちのさいしゅうれっしゃ』(偕成社/サンケイ児童出版文化賞)、『かんがえるカエルくん』(福音館書店/講談社出版文化賞絵本賞)、「トガリ山のぼうけん」シリーズ、「ゆうひの丘のなかま」シリーズ(理論社)などがある。98年栃木県馬頭町(現・那珂川町)に「いわむらかずお絵本の丘美術館」を開館、絵本・自然・こどもをテーマに活動を続けている。栃木県益子町在住。

作品紹介

14ひきのひっこし
作・絵:いわむら かずお
出版社:童心社
14ひきのあさごはん
作:いわむら かずお
出版社:童心社
14ひきのやまいも
作・絵:いわむら かずお
出版社:童心社
14ひきのさむいふゆ
作・絵:いわむら かずお
出版社:童心社
14ひきのぴくにっく
作:いわむら かずお
出版社:童心社
14ひきのおつきみ
作・絵:いわむら かずお
出版社:童心社
14ひきのせんたく
作・絵:いわむら かずお
出版社:童心社
14ひきのあきまつり
作:いわむら かずお
出版社:童心社
14ひきのこもりうた
作・絵:いわむら かずお
出版社:童心社
14ひきのかぼちゃ
作:いわむら かずお
出版社:童心社
14ひきのとんぼいけ
作:いわむら かずお
出版社:童心社
14ひきのもちつき
作・絵:いわむら かずお
出版社:童心社
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