●『14ひきのかぼちゃ』に込めた命の粒
───「これは かぼちゃのたね、いのちの つぶだよ」というおじいさんの一言に、この絵本のテーマがすべてつまっているように感じました。
この作品を作った1年後に美術館ができました。その頃、美術館のフィールド「えほんの丘」農場でしきりにかぼちゃを作っていました。子ども達に私達が食べる作物も人間と同じ生き物だよということを伝えたかったんです。この頃、私もだいぶおじいさんの年齢に近づいたので、この言葉をおじいさんに言ってもらってもいいなと思えるようになりました。
───野ネズミたちがかぼちゃに窓を作って中味を収穫するところが、小さな家に見えて、楽しいですよね。

野ネズミたちがどうやって収穫するかは、ずいぶん考えました。本物のかぼちゃを使って、どうやったら面白い構図ができるか、写真を撮って確かめたりして…。
料理がおいしそうでしょう(笑)。このときはうちの次男がかぼちゃ料理を作ってくれて、それをスケッチして描いたんですよ。
───それで、こんなにおいしそうなんですね!
●美術館周辺が舞台『14ひきのとんぼいけ』

- 14ひきのとんぼいけ
- 作:いわむら かずお
- 出版社:童心社
「昼ごはん食べたら、とんぼ池で遊ぼう」と、いっくん。
ハグロトンボ、オニヤンマ、シオカラトンボ、ナツアカネ…。
10匹のきょうだいたちは、たくさんのとんぼたちと出会います。
───息子とトンボをみるといつも思い出すのがこの作品なんです。野ネズミと比べるとトンボのサイズが大きくて、迫力満点ですよね。
これも美術館のフィールドにあるため池を舞台にしたおはなしです。こんどは『14ひきのせんたく』で描いた流れる水とは違う、静止した水の表現です。
───このときは子ども達だけでとんぼいけに遊びに行っているんですよね。大人がいない分、冒険的な要素が強いように感じました。
このときは子ども達だけで遊ばせたかったんですよね。お父さんたちが参加するときは、もうちょっと大がかりなものの方がいいんですよ。
●楽しくおいしい家族のイベント『14ひきのもちつき』

- 14ひきのもちつき
- 作・絵:いわむら かずお
- 出版社:童心社
薪をわるおとうさん。かまどに火を入れたおじいさん。おばあさんとおかあさんは、お米の準備。子どもたちも起きてきて、お手伝いします。さあ、いよいよおもちつき。ぺったんとったん、どんなおもちができたかな?
───そして最新作が『14ひきのもちつき』。これぞ大家族ならではのイベントだと思いました。
最新作って言っても、6年もたっているんですね…(笑)。
「もちつき」は子どものときからずっとやってきていて、美術館でも恒例行事なんですよ。ある年の「もちつき」で、おじいさんと小さい子どもが一緒に餅を丸めていたんですね。家族かな?って思っていたら、違う家族のおじいさんと子どもだったんです。「もちつき」がいつの間にか参加者をひとつ家族にしていたんです。それを見て、ずっとやりたいと思っていた「もちつき」を絵本にしようと思いました。
───知らない人たちが「もちつき」を通じて、ひとつの家族になっていくのはすごく幸せですね。そんな経験が絵本で疑似体験できるのも楽しいですよね。

「もちつき」はとてもいい家族の行事ですよね。ちゃんとみんなに役割があって参加できるんですよ。ろっくんたちがやっている餅をのす作業なんて、とっても気持ちいいんですよ。最後にみんなで食べるという楽しみがあって、幸せなんです(笑)。
●30年たって思う、「14ひき」シリーズの原風景

───ここまでかけあしで全作品についてお話していただきましたが、あらためて30周年を迎えて伝えていきたいことはありますか?
「命の継承、いろんな生き物たちが命を引き継ぎ生きている」ということの大切さを、ますます強く思うようになりました。
74才にもなると、自分の残りの命の時間が見えてくるんだけど、自分の子どもや孫はもちろん、「14ひき」を読んでくれる読者の方や、美術館に遊びに来てくれる子ども達との出会いを通して、自分の命が継承されていくということを、ひしひしと感じることができます。
「14ひき」シリーズは私の原風景である子ども時代に遊んだ雑木林が出発点となっているけれど、「14ひき」に出会ってくれた子ども達にとって、この絵本と、絵本を読んでくれた人たちや共にいた時間が、その子の原風景となっていることがあるかもしれないな…と。
そのくらい、子ども達と絵本の心のつながりは大きいものだなと思います。
───ありがとうございます。これからもずっと、子ども達の原風景として「14ひき」シリーズが残っていくと思います。
Q.なぜ14ひきなんですか?
A.こどもの数を区切りのいい10ぴきにしたからです。おとうさん、おかあさん、おじい
さん、おばあさんをたして、10+2+2=14というわけです。1画面をじっと見て読者
がいろいろ発見することが、この絵本の楽しみのひとつです。「ろっくんなにしてる?
」「くんちゃんはどこ?」と探すのに、10ぴきはちょうどいい数です。それに、10ぴき
いれば、そのうち3びきぐらい、ほかの子と違うことをやっていても、ストーリーは進
展していくからです。
Q.なぜ、ネズミなんですか?
A.ちいさな世界をクローズアップするような絵本を描きたかったのです。ゾウが主人公
では、ちいさな草花など点のようになってしまうでしょ。それに、ネズミは多産のイメ
ージがあり、大家族にぴったりです。はじめ、試しにリスで描いてみたのですが、画面
中しっぽだらけになってしまいました。
Q.『14ひき』は何カ国で出版されているのですか?
A.一番発行部数が多いのはフランス、そのつぎが台湾、ドイツと続きます。その他イタ
リア、スペイン、アメリカなど、現在10カ国で出ています。最近になって、中国が名乗
りを上げました。ひとりっこ政策と子だくさんの『14ひき』は矛盾しないのかと気にな
りましたが、どうやら多くの読者を得そうです。
(いわむらかずお絵本の丘美術館「14ひき」誕生30年記念展より)

(編集後記)
インタビューをさせていただく前に、美術館の方で展示されていた「14ひき」の原画を拝見し、そのあまりにも緻密で深みのある絵の前で立ち尽くしてしまいました。どの絵を見ても、絵本のストーリーが瞬時に浮かび上がってきます。この絵本が30年もの間愛され続けている理由は、子どもたちが一番知っているのかもしれませんね。
いわむらさん、長い時間お話いただきありがとうございました!
インタビュー: 磯崎園子 (絵本ナビ編集長)
文・構成: 木村春子(絵本ナビライター)