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【長新太没後10年記念連載】 担当編集者&絵本作家インタビュー

2016/04/07

【連載】第10回 フリー編集者・小野明さんインタビュー

【連載】第10回 フリー編集者・小野明さんインタビュー

今回、お話を伺うのは、フリー編集者の小野明さんです。「長新太の絵本に出会わなかったら、ぼくは絵本に関わる仕事をしていなかった」と語る小野さんは、長さんの絵本『ゴリラのビックリばこ』(絵本館)や「イカタコさん」シリーズ(佼成出版社)などの作品にもデザイナーとして携わりました。小野さんが感じる長新太さんの魅力、特にお気に入りの3作品について、お話を伺いました。
●清濁すべてをのみ込んだ長さんは、まさに「大人(たいじん)」でした。
―― 今回、小野さんには、たくさんある長新太作品の中から、特に好きな3冊をご紹介いただけたらと思います。まず最初の1冊は、小野さんの人生を変えた絵本ということですが……。

1978年にエイプリル出版から出された『ちへいせんのみえるところ』(現在はビリケン出版より復刊)。この本にぼくは24歳のときに出会いました。自分が子どものころに絵本を楽しんだ記憶もなかったので、絵本は子どもが読むもので、大人が読むものではないと思い込んでいました。でも、本屋さんでたまたまこの絵本を手にとって考え方が180度変わりました。それまでは、哲学とか抽象絵画とか現代詩とか、難解な事を極めるのが大人として格好いいと思っていましたが、この絵本はとても明快なのに、しっかりと哲学が含まれている。何より、難しい文章を並べなくても、絵で、ビジュアルでとても豊かな世界が語られているんです。そのことにすごくショックを受けて、「ぼくが進む道は、これしかない!」と直感し、絵本の世界に進むことを決めました。
―― 普通に生きている中で、それほど衝撃を受ける作品に出会えることはとても少ないと思います。

この作品と出会わなければ、たぶんぼくは表面的な部分ばっかり気にして、小難しいことを言う「イヤな奴」になっていたんじゃないかと思うんです(笑)。『ちへいせんのみえるところ』は、ぼくに「お前が分かった風になっていることは、まだまだ浅いんだぞ」と言ってくれた作品なんです。この出会い以降、1000回以上はこの絵本を読んでいるけれど、今でもページを開くたびに新しい衝撃を受けています。
―― 今でも?! それほどこの作品に思い入れを持っているのですね。

ぼくにとって、長新太と出会った作品であると同時に、最初に出会った「絵本」ですから。
―― なるほど。そして次に選んでいただいたのが『アブアアとアブブブ』(ビリケン出版)。この作品に関しては『別冊太陽 長新太 ユーモアとナンセンスの王様』(平凡社)の中で、五味太郎さんと対談されています。小野さんの分析力のおかげで、こういう絵本の楽しみ方もあるんだとビックリしました。

五味さんとは『絵本をよんでみる』、『絵本をよみつづけてみる』(著:五味太郎・小野明、出版社:平凡社)でいろんな絵本作家さんの作品を読んでいろいろ話す機会があったので、今回の別冊太陽ではその出張版という感じですね。まず、五味さんの読み方がやはりすごくて、言葉の端々に長さんをリスペクトしている様子が伺えますよね。対談でも言ったけれど、目の前に突然パラリと紙が垂れてくるのは変なことだし、紙が上がったときに見える景色を想像すると、前とは違って見えるんじゃないかと思うんですよね。長さんはそういう意図を持って描いてはいないかも知れないけれど、ぼくはそうやって楽しむことができたので、それでいいと思っています(笑)。

アブアアとアブブブ アブアアとアブブブ」 作・絵:長 新太 出版社:ビリケン出版

アブの アブアアとアブブブは きょうだい。
いつも かみを ぶらさげて とんでいる。
だれかさんの かおのまえに
かみを パラリと さげてしまうのが
とても たのしみ

長新太の傑作絵本が、30年の時を経て待望の復刊!

―― 『アブアアとアブブブ』は1976年に童心社から出版され、後にビリケン出版から復刊されています。復刊されるときに、版型が変ったり、印刷のタッチが変わったことにもビックリしました。

童心社版では、すべて色指定(※)のフラットな画面なんですよね。これには理由があって、長さんが色校を出すとき、なるべく絵のタッチをフラットにしてねと言ったんだそうです。そうしたら、印刷所が色指定で出してきて、それを見た長さんが、まあ、これもいいねとOKしたので、そのまま出版になったといわれています。2006年に復刊されたビリケン出版版では、絵のタッチを原画に忠実に印刷して、判型も大きくして出版しています。ぼくは、どちらも持っていますが、ビリケン版の方が、長さんが描こうとした空気感が表現されているように思いました。
―― 長さんの作品の中には復刊したものも多いですが、復刊することで以前より作品のよさが出ることもあるんですね。それでは、3冊目に選んでいただいた絵本を教えていただけますでしょうか。

チョコレートパン』(福音館書店)です。長さんはよく、「ナンセンスの人」って言われるけれど、それだけでなく、長さんは「叙情性」もすごく大切にしていて、作品に残しています。さらにもうひとつ、長新太作品の魅力をあげるとしたら、それは「かわいさ」なんですよね。
―― かわいさ、ですか?

ぶたやまさんだって、キャベツくんだって、かわいいと思うけれど、ぼくにとっての最強のかわいさは、『チョコレートパン』だと思うんです。

チョコレートパン チョコレートパン」 作・絵:長 新太 出版社:福音館書店

絵本作家・長新太さんが亡くなって5年ほど経ちますが、
長さんのユーモラスな絵本は今でも子どもたちに不動の人気を誇っています。
『チョコレートパン』は、そんな長さんのエッセンスが詰まった1冊です。どこか山の中にある「チョコレートの池」。
そこにパンがやってきて、池につかると、チョコレートパンのできあがり。続いてゾウがやってきて、池に入って、
チョコレートまみれになって、それからリスやウサギやネズミがやってきて、やっぱり池に入って。
長さんの不可思議なストーリーと強烈な色彩は、子どもたちも大好きです。シンプルでへんてこなお話をお楽しみください。

―― たしかに、丸いパンがチョコレートの池に入っていく姿も、じっと漬かっている姿も、チョコレートパンになって、池の中から出てくる姿も、笑いを誘いますね。

チョコレートの池から出てきたときの足跡の残り方とか、最高にかわいいですよね。チョコレートゾウの体のまわりのピンク色がチョコレート池の下地の色だとか、白い空が世界をより印象的にしているとか、長さんワールドが満ちているうえでのかわいさですからね。もうたまりません。 『チョコレートパン』は、長さんの絵本の中でもトップクラスのかわいい絵本だと思います。本のサイズや色、チョコレートパンの小ささすべて含めてね。

―― 小野さんは、長新太さんとお仕事をされたことがあると伺いましたが、最初に長さんにお会いしたのはいつごろでしたか?

絵本館から出版されている『ゴリラのビックリばこ』のデザインを担当することになって、絵本館の有川さんに連れられて、はじめて長さんのお宅に伺ったのが最初だと思います。長さんの絵本と出会ってから10年くらい経った、1980年代だったと思います。
―― はじめて長さんのお宅に伺ったときのことは覚えていますか?

もう緊張して、緊張して、最初に伺ったときのことはよく覚えていないんです。ただ、ひとつだけ鮮明に覚えているのは、玄関の靴箱の上に三木富雄(※)の彫刻が置いてあったことです。ぼくも大好きなアーティストだったので、長さんもなんだ! という喜びと、長新太を形作ってきたものの一端を知れたような嬉しさで、緊張が一瞬和らいだのを覚えています。
※三木富雄…彫刻家。(1937年-1978年)
―― それから、長さんのお宅にはよく通われたのでしょうか?

仕事ではデザインや絵本の色校を確認していただいたのと、『絵本の作家たちT』(平凡社)のインタビューで何度か伺いました。長さんは印刷に関して、それほど注文を出す方ではなく、全体的な色のバランスが取れていればOKでしたね。自分の描いたものを大切にしたうえで、あまりデザインが勝ったような印象のものには、ダメ出しがありました。

―― お仕事以外で、長さんと会ったり、飲みに行ったことはありましたか?

大勢の場で何度かご一緒できましたが、二人だけで飲んだのは、一回だけ。広島のふくやま美術館で長新太展が開催されていたとき、美術館のレストランで1時間くらいビールを飲みました。これは最初にお宅に伺ったときよりもっと緊張しましたね(笑)。でも、話した内容はしっかり覚えていますよ。
―― 憧れの長新太さんと二人なのは緊張しますよね。今回、いろいろな方にお話を伺う中で、長さんは真面目で寡黙な方というイメージを持ったのですが、小野さんから見た長さんはどんな人でしたか?

饒舌ではないと思うけど、寡黙な方でもなかったですね。長さんくらいの世代の人を「成熟した人」「徳の高い立派な人」という意味を込めてぼくは「大人(たいじん)」と呼ぶのですが、清濁すべてのみ込んだ長さんは、まさに「大人」だと感じました。


序章 ナンセンスの王様 長新太さんってどんなひと?
1958年のデビューから2005年まで独自のナンセンス世界を生み出し続けてきた長新太さん。
長さんってどんなひと? 知りたい方はこちら>>





長新太さん没後10年記念連載

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