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【長新太没後10年記念連載】 担当編集者&絵本作家インタビュー

2016/03/17

【連載】第3回 「キャベツくん」シリーズ担当編集者 松田司郎さん(文研出版)インタビュー

【連載】第3回 「キャベツくん」シリーズ担当編集者 松田司郎さん(文研出版)インタビュー

今回、登場いただくのは、文研出版で長く編集を務められていた松田司郎さん。長新太さんと共に『キャベツくん』シリーズを生み出した編集者さんです。松田さんから見た長さんの人となり、ベストセラー絵本『ろくべえまってろよ』や『キャベツくん』が誕生したヒミツなどを教えていただきました。
●あったかくって冷たくって、空っとぼけていておかしい長さんの世界。
―― 長新太さんとの出会いはいつでしたか?

初めて会ったのは1975年、長さんのご自宅2階のアトリエでした。まだ無名の灰谷健次郎氏の絵本のシナリオをもって、執筆依頼にうかがったんです。

―― 灰谷健次郎さんの文章で、長新太さんの絵というともしかして……。

はい。後に『ろくべえまってろよ』としてベストセラーになる作品です。灰谷氏のシナリオは、めくってもめくっても穴ばかりという設定で、しかも「絵本を見ている子供たちの目が穴と犬に集中するように」という灰谷氏のコメントが添えられていました。私が絵描きの立場なら、さぞ厳しい注文だなぁ……と正直思いました。それで、長新太さんにお願いに行ったのですが、私が長さんしかないと考えたのは、まず大好きな作家だったことと、「穴に落ちた犬を助け出すまでのごくシンプルな」話に〈状況を説明しているような〉絵は不向きですし、子どもたちのバイタリティを骨組みにした大胆な構図を長さんの絵に期待したからです。

―― 『ろくべえまってろよ』は小学校の教科書にも載っているので、知っている方も多いと思います。長さんから原画を受け取られたときはどう思いましたか? 

出来上がった原画を目にしたときの驚きは今も忘れられません。灰谷氏の〈穴〉への思いを長さんは十分に汲み取って、ヨコをタテにもしたりという大胆な断面図的構図で見事に視覚化していただいたのです。

ろくべえまってろよ ろくべえまってろよ」 作:灰谷 健次郎
絵:長 新太
出版社:文研出版

たいへんだ! 犬のろくべえが深い穴の中に落ちてしまった。早く助け出さないと死んでしまうかもしれない。どうしよう! 子どもたちは救出大作戦に……。

―― 周りの方の反応はいかがでしたか?

原画が出来上がったとき、私は大喜びで関係者にお披露目をしました。でも、営業や広報関係者から「“めくってもめくっても穴ばかり”のこんな暗い絵本が売れるかな?」という心配の声や、「これ、消し忘れか?」などの指摘を受けたんです。消し忘れというのは、人物や事物の輪郭線がはみ出すように、おおらかに伸びやかに引かれている、その鉛筆のような〈線〉のことのようでした。

―― なかなか作品の良さが受け入れられなかったのですね。

それでも、長さんの絵は実に素晴らしいのです。子どもっぽいとか、幼稚だとか、たかがマンガだとかいう人に出会うと、その人が絵のどこに目を向けているのかと、私は疑いを持ってしまいます。当時、ある美術館で催された絵本原画展で悲しい経験をしたことがあるのですが、主催者側の責任ある人が、長さんの原画の前で、私に向って「ねえ、ほら、この人の絵は額にかけてもつまらないでしょ」といったニュアンスのことをつぶやいたんです。そのとき私は、絵本の絵というものの受けとり方が非常に偏っていることを感じて虚しく感じました。

―― 松田さんが思う、長さんの絵の魅力とはどんな部分でしょうか?

一本一本の線、線にのっかかっているドローイングが、私たちに快く語りかけてくれる。その躍動する一本の線、はみ出したドローイングの面のひとつひとつが、見るものにそれぞれなりの新しいイメージを創らせてくれるところです。さらにそれらの部分々々が総体となって、私たちにもの(人間も含めて)が存在することの楽しさや確かさを伝えてくれるのです。ぼうしが帽子としか広がらない絵、ひつじがヒツジとしか映らない絵――そういった絵が氾濫する中で、長さんの絵は想像力の楽しみを広げ、人間の精神の解放を可能にする数少ない絵のひとつだと思います。

―― なるほど……。たしかに、長さんの絵は見ている物以上に、いろいろなことを想像できる様に思います。松田さんは長さんの作品の中でも特にファンの多い作品『キャベツくん』を担当された編集者さんですが、どのような経緯であの作品は生まれたのですか?

『ろくべえまってろよ』の素晴らしい絵を目にした私は、次は長さんご自身の発想による新しい絵本を描いてほしいと強くお願いしました。当時の長さんは売れっ子作家でしたので、私以外にもいくつもの依頼を抱えておられたと思います。しかし、児童書に乗り出して間がない小社の要望を汲み取っていただき、ほどなくお呼びがかかりました。ご自宅のアトリエで『キャベツくん』のダミー(原案)を拝見したとき、私はこれぞまさに長新太の世界だと感激したのです。

―― そのとき、松田さんから何か修正のお願いなどはされたのですか?

作品が完成するまでのプロセスの中で、私は編集者の意向として、今思い出しても大変失礼なお願いをしました。それは各場面にある程度の分量の文章を入れることでした。長さんの傑作絵本は、絵本の流れに従って必要最低限の文章が添えられるものが多いのです。でも、絵本の新企画に参入した小社は、販売戦力を小学校低学年以上に定めていたので、読書運動の一翼を担う役割を果たそうという方針の下、『キャベツくん』も今までの長新太作品では見られない、長い文章を書いてほしいとお願いしました。

―― 他の作品よりも長い文章がありながら、しっかりと長さんのナンセンスが描かれているのが、すごいと思いました。松田さんは、『キャベツくん』がこんなに長く、たくさんの人に愛されているのはなぜだと思いますか?

キャベツくん キャベツくん」 文・絵:長 新太 出版社:文研出版

ライオンがキャベツを食べるとどうなるのかな? じゃあクジラが食べると? キャベツくんとブタヤマさんの楽しい会話のおもしろさ。

この絵本は、食いしん坊のブタヤマさんがキャベツくんを食いたくてしかたないが、ぼくを食ったら、ほら、こんなふうになると、次々とキャベツくんが空に描く着想があんまり面白いものだから、しまいに泣きべそをかきながらキャベツくんにレストランに誘ってもらうというおかしな絵本です。ブタヤマさんがもし立派な大人だったら、一口でキャベツくんを食ってしまったと思いますが、こんなふうに楽しい遊びをくり広げられるのは、人間に内在している想像力(遊びの精神)のゆえなのだと思います。
『きゃべつくん』中ページ
―― たしかに、空にキャベツになった動物たちが次々と登場する場面は、「ブキャ」って声が出ますよね(笑)。そのほかに、長さんがこだわられていた部分などはありましたか?

本が商品となる最終工程は、印刷・製本です。絵本の場合は、通常4色(シアン、マゼンダ、イエロー、ブラック)で印刷しますが、高速輪転機で数百部ほど刷った時点で、その刷り出しを画家さん本人に印刷現場に出向いてもらって〈色校正〉をしていただくのが通常でした。作家さんによっては、原画と照らし合わせて何度もダメダシが出ることもあったのですが、長さんは印刷に関しては一切無頓着でしたね。それは、すでに原画そのものに力がこめられているので、細部についてはお任せするということであったのだと私は思っています。

―― 松田さんから見た長さんは、どんな方でしたか?

『ろくべえまってろよ』をきっかけに、長さんと親しくお付き合いさせていただくようになりました。
アトリエにおうかがいして話をしているだけで、心がホカホカしてくるようなあたたかい雰囲気を胸の内に感じることができる方でした。それはおそらく、作品世界にも漂う長さんご自身の自由でのんびりした感覚のせいなんだと思います。

―― ご自身が担当した、長新太作品の中で、特に思い入れの深い作品を教えてください。

やはり、私が長さんと初めてお会いするきっかけとなった『ろくべえまってろよ』ですね。傑作絵本といわれるのは、絵も文も一人の作家によるものが多いのですが、この絵本は、絵と文が見事に融合している。大型画面を有効に使った長さんの斬新な構図と、子どもたちの想像力とバイタリティを視覚的な骨組みにすえた灰谷氏の新鮮な構成がマッチし、ユニークで独自な世界を作っているのです。

―― なかでも好きな場面はどこですか?

子どもたちが穴に落ちた犬を助け出すという単純なプロットですが、緊迫感あふれる子どもたちの騒ぎに対をなして、通りかかる大人たちの無関心ぶりがなんとも大らかにユーモアいっぱいに描かれているところ。ろくべえという犬に対する子どもたちのいじらしいまでの情愛は、大人たちが身を賭して誓い合う愛と同質のものであると思います。子どももまた、愛を抱いて成長し続ける人間であることを、大人以上にしなやかな純粋エネルギーを持っていることを、この絵本は示してくれているのです。

また、この絵本に思い入れがある理由のひとつには、小社に児童書編集部ができて最初の大型創作絵本シリーズの第一冊目に当たるからだということもあります。企画立案・著者との折衝・編集作業とすべてをまかなうのは楽しい仕事でした。それに、創作絵本は年間5000冊売れればいいという常識をくつがえし、好調な売り上げを伸ばしたという点も理由。いずれにしろ、編集は単なるビジネスではなく、公私をかけて真剣に交流し合うものだという側面を教えてくれた楽しい経験でした。

―― 他の出版社から出ている長新太作品の中で、好きな作品を教えてください。

それは、『ごろごろにゃーん』に尽きますね。私の息子が幼いころ、毎晩のようにリクエストした絵本で、当時彼らの口をついて出る言葉は「ごろごろにゃーん」ばかりでしたよ(笑)。女房が「お手て洗った?」と聞いても「ごろごろにゃーん」、「もうごちそうさまなの?」と聞いても「ごろごろにゃーん」といった具合でした。
ねこたちが魚の形をした(というか魚そのものみたいな)飛行機に乗り込んで空の旅を楽しむこの絵本は、数多い長さんの作品の中で私の一番好きなもののひとつです。飛行機の上から釣りをし、化け物くじらや空飛ぶ円盤を尻目に、嵐の山々、ビルの林の上を颯爽と飛び、くやしがる犬たちを静かに見下ろして月夜の森に消えていく。「ごろごろにゃーん」というのは、世俗のしがらみをはすに見下ろした長さんの、のどの奥から思わずもれた鼻歌ではないかと思ってしまいます。

―― 長さんの鼻歌ですか…素敵ですね!

長さんの世界はあったかくって冷たくって、空っとぼけていておかしくって、哀しくってどうしようもなく馬鹿ばかしい。私たちがてっとりばやく何かにすがって作り笑いをしているとき、長さんは腹の皮をもじゃもじゃふるわせてごろごろと笑っているのです。長さんの絵を「子どもへのお追従だ」とか「私にだって描けそう」とかいう声を聞きますが、それは決して自分は子供なんかでないと思っているからなんです。長さんの絵がすごいのは、それによって私たちがまったく別の新しいイメージを創ることができるからなんです。分かりやすく説明した文章で言うと、「子供の絵に見られるデフォルメが、テクニックの問題なんかでなく、明らかに精神の解放を示していることを知ったとき、ぼくは初めて子供のユーモアが何かということを理解できた」(「長新太さんの絵」『児童文学一九七六』所収)という灰谷健次郎氏の言葉なのではないでしょうか。


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