あるところに、ナニモセン五世という王さまがいました。
ナニモセン王が代々治めるナニモセン王国で、三百三十三人の家来をつき従えています。
王さまは名前のとおり、自分ではなんにもしないなまけもの。
毎日たくさんのごちそうを食べ、ずっと寝ていて、着替えも召使にさせてもらい、自分で歩くすらせずに、いつも家来の担ぐ輿に乗っています。
ナニモセン五世には、ピンピという名前の娘がいました。
ピンピは、ナニモセン一族の血を継いでいるとは思えないほど、元気でおてんばな女の子。
いつもお城のあっちこっちを走りまわっていて、お付の女官はあとを追いかけるのが大変!
そんなある日、王さまが病にふせってしまいます。
大好きなごちそうも食べず、なにも飲まず、みるみる弱っていく王さま。
国中のお医者さんが手をつくしても、王さまがなんの病気にかかっているかもわからず、もちろん、いっこうによくなりませんでした。
王さまの病気を治すことのできる魔法の薬を探すため、お城を飛び出したピンピ。
道に迷ったピンピが森でであったのは、少年ガウデオと羊飼いのおじいさんでした。
ピンピの話を聞いたおじいさんは、王さまのかかっているのはありふれた病気だというではありませんか。
「その病には、飲んできく薬はない。だけど、治し方を教えてあげよう」
おじいさんが教えてくれた、病気の治し方、それは――
「なんでも自分ですること」!
とても童話めいた物語でありながら、魔法の薬を手に入れてめでたしめでたし、とはならないところがおもしろいところ。
それどころか、羊飼いのおじいさんが教えてくれる王さまの病気の治療法は、魔法のマの字も入る余地のない、なんとも現実的な健康論なのです。
決して自分ではなにもしたがらない王さまが、しかも病でふせっているというのに、いったいどうやって自分のことを自分でさせればいいのでしょう?
お城にいる三百三十三人の家来たちに、王さまの世話をさせないためにピンピたちが用いるのは、なんと青い絵の具!
かしこい王女ピンピと少年ガウデオが、なまけぐせのしみついた王さまを動かすためにしぼり出す予想外のアイデアが、とってもユニークです。
「自分のことは自分でする」ということはもちろん、あれやこれやと欲しがらずに、自然のままあるものに目を向けることの大切さも教えてくれる物語。
はたして、ピンピは王さまの病気をどのようにして治すのでしょうか?
(堀井拓馬 小説家)
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