赤いスーツ、赤い靴、赤いステッキに真っ赤なルビーの指輪まで。
ぼうしもシャツも蝶ネクタイも、全部真っ赤なあやしいおじさん。
不審者!?
ゆるキャラ!?
都市伝説の怪人!?
「ボンジュール! わたしの名は、ムッシュ・トマーレ。『おうだんほどうの見張り番』とでも名乗っておきましょうか」
おうだんほどうを渡ろうとしている人のそばに、突然姿を現す謎の紳士、ムッシュトマーレ。
でも、渡ろうとしているおうだんほどうは、『青』なんだけど……
「きみの心のなかの信号は、ほんとうに青でしたかな?」
その場の空気に押されて、友だちをかばうことができなかった男の子。
格下だったはずの相手に、大差をつけられて負けた陸上部の少年。
脳梗塞で右半身に麻痺が残り、今までできたことができずにいら立つおばあさん。
ムッシュトマーレに問いかけられて、人々はみずからの「心の信号」の色を、もう一度見直すことになります。
本当に、このまま道を渡っていってしまっていいのだろうか……?
ヴィジュアルだけでもとてつもないインパクトの、ムッシュトマーレ。
そのうえなぜか会話にフランス語をはさんでくるし、急に現れたり消えたりするし、しかも、その帽子や指輪にだって、不思議な力があるんです。
しかし、その奇抜なキャラクターに反して、彼の関わる人々が抱えた悩みは、とても現実的。
ビビッドな表紙からは想像できませんが、この本に描かれているのは、身近な悩みを抱えた人々の、リアルな群像劇なのです。
考えることをやめて、なりゆきにまかせてしまっていては、心の信号はいつも赤のまま。
深い悩みのために、何も考えたくなくなってしまったときにも、ぐっとこらえて立ち止まり、どうすることが正しいのかをもう一度考え直してみる。
思慮深くあることこそが自分を救うのだと、赤い紳士は教えてくれているのかもしれません――
(堀井拓馬 小説家)
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朝読に最適、朝から心がぽっかりする小品集
心のなかの信号を無視して突き進もうとする人たちに、「ちょっと待って!」と声をかけ、どこからともなくあらわれる謎の男ムッシュ・トマーレ。心の中の信号を無視して、横断歩道を「えいっ!」と渡ってしまおうとする人って結構いるのです。そうすると大変です。どうなるかっていうと・・・・・・もやもやした気持ちを抱えたまま“まよいの国”に入り込りこんでしまったり、むしゃくしゃして“なげやりの国”に迷い込こんだり。ひとりぼっちになってしまう"こどくの国"やいつもいらいらしている"いらだちの国”なんていうのもあります。そこに入り込んでしまうともうもどってこれなくなるかもしれません。ムッシュ・トマーレが、それぞれの心の声に正直になることに気づかせてくれます。みなさんの前にもムッシュ・トマーレが出没するかもしれませんよ。気をつけてくださいね。
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