街の古い洋裁店で見習いをする女の子。朝からずっとおつかいに届け物、そしてお店が終わればお掃除をして。そんな彼女がいつも気にしているのは、ウィンドーに飾られている古い小さなミシン。
「まわしてみたいな てまわしミシン きっとかわいい おとがする。」
ある満月の夜、女の子はミシンに呼ばれているような気がして、屋根裏部屋から降りてきて、誰もいない店の中でミシンをそっとまわしはじめるのです。
カタカタカタ カタカタカタ、ミシンは歌い出します。
知らない村の、知らない歌。
気がつくと、女の子は大きな服を完成させています。
店の主人には怒られたけれど、その服はお客さんに買われていきます。
一月たった次の満月の夜、更にその次の満月の夜も女の子はミシンに誘われるままに服をつくります。
でもある満月の夜、なんだか懐かしいような気がして・・・。
100年も前の小さな手回しミシンをめぐる、不思議な物語。
ミシンが過ごしてきた日々や、縫い上げてきた様々な服が女の子に触れられることによって思いだされていくのでしょうか。カタカタカタと音をきざみながら美しい音色と風景が浮かび上がっていきます。その中で夢中になってミシンを回す女の子の姿は本当に幸せそう。そうやって彼女は自分の運命をも切り開いていきます。
作者のこみねゆらさんのお宅にあるアンティークの手回しミシン。普段から愛用されているそのミシンの美しい姿は絵本の最後に紹介されています。どんな思い出から生まれてきた物語なのでしょう。想像をめぐらせながら、この女の子の紡ぎ出す世界を存分に味わってくださいね。なんだかこの絵本を読みながら、叔母さんに作ってもらった一張羅のワンピースを着て外を思いっきり駆け回りたい!と夢見ていた子どもの頃の自分を思い出しちゃったりして・・・。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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