「やまんばあさん」「ムジナ探偵局」「シノダ!」など、数々の楽しい児童文学シリーズを書きつづける富安陽子さん。このたび4巻目が発売される「妖怪一家九十九(つくも)さん」シリーズを中心に、お話をうかがうことができました。富安陽子さんがどのように物語を書いていらっしゃるのか、そしてご自身のルーツについてもお話くださっています。
巨大団地に、人間たちに混じって、こっそり団地生活を始めた妖怪一家。お父さんはヌラリヒョン、 お母さんは、ろくろっ首、子どもたちは、サトリにアマノジャクに一つ目小僧。最も大切なルールは、「ご近所さんを食べないこと」。
●団地の地下に、妖怪一家が住んでいる
───以前、小学校の図書室に勤めていたとき、子どもたちが富安陽子さんの本にすっと入りこみ、楽しんで読む姿を目の前で見て、富安さんの物語の魅力を感じてきました。
この世のものか、あの世のものか、わからない、不思議な存在を描かれることが多い富安さん。「妖怪一家九十九(つくも)さん」シリーズは、登場人物がほとんど妖怪で、同時に「一家」であるところに、富安陽子さんならではの“おもしろさ”がたっぷりですね。
まず、「一家」は妖怪ヌラリヒョンがお父さん、ろくろっ首がお母さん。ということは、子どもはヌラリヒョンとろくろっ首のハーフかと思ったのですが……。
いえいえ、九十九さんちは、血のつながった本当の家族ではありません。そもそも血なんて流れていないのです。だって妖怪ですからね。
子どもたちは、一つ目小僧にアマノジャクのぼうや、そして人の心をなんでも見抜くサトリという妖怪。おじいちゃんは見越し入道、おばあちゃんはやまんば。7人みんなバラバラです。
───九十九さんちが暮らすのは、化野原(あだしのはら)団地の建物の地下12階。入り口にはちゃんと「九十九」と表札がかかっているとか。
種類のちがう妖怪7人がなぜ「一家」として、人間たちの団地に住むことになったのですか。
化野原(あだしのはら)には、何百年も前から住みついている妖怪たちがいたんです。ところが巨大団地の建設がはじまり、すみかを追われることになった。怒った妖怪たちは、へたすると引っ越してきた人間たちをムシャムシャと食べはじめかねない。それはいかんということで、ヌラリヒョンというりっぱで辛抱強い妖怪の親玉が、先住妖怪の代表として、市役所に、建設工事をやめるよう、交渉にいきます。
当然、役所のおじさんたちはヌラリヒョンの話をまともに聞こうとしません。へんなやつがきたぞと、さんざん窓口をたらい回しされ、最後にたどりついたのが、地下階の「地域共生課」。
ここは、なんと “人間と妖怪が仲良く暮らすことをお手伝いする課”だったのです。まじめで人のよさそうな野中さんという職員は、ヌラリヒョンに、新しく建設される団地に住むことをすすめます。
「団地暮らしなんて、とんでもない」と思った妖怪たちですが、だんだん「それも悪くないかもしれないぞ」と思うようになり、河童は中央公園の池、カラス天狗一家は団地屋上、オクリオオカミたちは北側斜面の雑木林に住むことに。
そしてそのほかの妖怪たちは集まって、ひとつの家族のように、東町3丁目のB棟・地下12階の家に住むことになったわけなんです。まあ、それが「九十九さん一家」となったわけです。
───妖怪たちが、古い団地でなく、できたての新しい団地に住んでいるところがおもしろいですね。
ねえ。妖怪がピカピカの団地に住むなんて、聞いたことありませんよね。
古い団地は、地域社会ができあがっているので、やまんばのおばあちゃんや、見越し入道のおじいちゃんみたいなへんな人がいるとすぐわかっちゃう。どうも何か人間じゃないものがまぎれこんでるぞ、って感づかれるかもしれないでしょう。
だけど新しい団地は、意外と下の階に誰が住んでいるのか知らなかったりする。しかも大きな団地に、ほうぼうから人が集まってきて、生活をはじめるんだから、そのなかに妖怪の一家がまぎれこんでいたって、わからないかもしれませんよね。たとえば、このヌラリヒョンとエレベーターで一緒になっても、ん?この人、あんまりじろじろ見ないほうがいいかな……くらいで(笑)。
●もしかしたら、「本当にある」かも
───B棟の住人は、B棟に地下12階があることも、妖怪一家が住んでいることも知らない。エレベーターの階数表示も地上階だけですよね。どうしたら地下に下りていけるのでしょう?
それはね、エレベーターのボタンを「9」「10」「9」とつづけて押せばいいんです。そうすると九十九さんの家の入り口にたどりつけます。「B(地下)12」なんてボタンがあると、まちがって押した人が降りて、びっくりしたらいけないですからね。暗号を押さないと。
───9、10、9。「つ・く・も」ですね(笑)。
「こういうこと、本当にありえるかも」と読みはじめたらぐんぐん引き込まれちゃう。役所でヌラリヒョンがさんざんたらい回しにあう場面も、思わず「ある、ある!」とうなずいてしまいます。
役所って、たくさん課があるけれど、実は何をやっている課なのかわからないじゃない。問い合わせるとたいてい「それはうちじゃない」といわれてしまう。「○△課へいってください」「△△×課へ」っていわれるうちに、地下に入りこんで……妖怪担当のヒミツのセクションだって、あるかもしれないですよね。
───たしかに(笑)。
1作目では団地暮らしがはじまるいきさつと、団地暮らしの新鮮さにひたる妖怪たちのようすが描かれます。
ある夜、九十九さん一家は、団地のスーパーに押し入ったどろぼう二人組にバッタリ。このときにどろぼうを追いかけるマアくんの足の速さにびっくり! アマノジャクって足が速いのですか?
伝承では、小鬼のような妖怪がいつも人のいうことと反対のことをして喜ぶだけですが、『うりこひめとあまんじゃく』を読むと、アマノジャクがうりこひめをかついでだーっと山にかけのぼったと思ったら、こんどはおばあさんたちの前に現われたり、神出鬼没ですよね。だからアマノジャクは足が速くて力持ちなんじゃないかとわたしは思うわけです(笑)。
一つ目小僧も、目がひとつの顔で人をおどかすだけですが、ずーっとひとつの目で見ているわけですから、きっとすごく目がいいんじゃないかと。ヌラリヒョンだって「妖怪大百科」を読むと、妖怪の親玉としか書いていないし、「気づいたらそこにいる」からヌラリヒョンです。でも妖怪の親玉ってことは、やっぱり人格者だと思うんですよね、当然(笑)。だって、そうじゃないとめちゃくちゃなやつらをまとめられないでしょう。
日本ではまだ妖怪伝承が、一般に受け入れられる素地がある。そのベースの上に無理のない範囲でフィクションをつみあげ、イメージをふくらませてお話をつくっていけるのはおもしろいですよね。
───そしてどろぼうをつかまえたお礼にと、野中さんから、引っ越し百日目のお祝いパーティに招待される妖怪たち。
まだまだ、このあとも一波乱起きる九十九さん一家のお話、つづきは本を読んでのお楽しみということで(笑)。