
月刊絵本「こどものとも」創刊70周年を記念し、<年中向き>復刻版が登場です。<年中向き>オリジナルとして作られた初期50作品を、できるだけ当時のままの形で復刻しました。1969年から1989年まで、20年という時間をかけて刊行された50冊には、赤羽末吉さん、加古里子さん、五味太郎さん、たかどのほうこさんなど、幅広い世代の作者の作品が凝縮されています。解説書付き。特製ケースに収めてお届けします。
『こどものとも創刊70周年記念 こどものとも復刻版「年中向き」初期50作品』 月刊絵本「こどものとも年中向き」は、「こどものとも」の姉妹誌として、1968年4月に創刊。当初は、「年少版こどものとも」あるいは「普及版こどものとも」と称していましたが、のちに、現在の「こどものとも年中向き」となり刊行してきました。 このたび、こどものとも創刊70周年を記念し、これまで触れる機会が少なかった黎明期の「こどものとも年中向き」を初めて刊行順に50冊完全復刻いたします。
子どもたちは年中児になると、主人公にしっかり自分を重ねて、物語を楽しむことができるようになります。そんな子どもたちに向けて、物語の入口になる絵本は、はたしてどのようなものが最適なのか。この黎明期のオリジナル50作品には、たくさんの試行錯誤があると同時に、作者、編集者たちの熱い思いがこめられています。
作者は、赤羽末吉、井上洋介、内田莉莎子、太田大八、小野かおる、加古里子、梶山俊夫、片山健、角野栄子、五味太郎、さとうわきこ、瀬田貞二、長新太、中谷千代子、なかのひろたか、古川タク、堀内誠一、村山知義、山脇百合子……と絵本の歴史をつくった人ばかり。あらためて、作者や編集者のことばを中心に作品をいくつかご紹介します。 続きを読む
『ころころ だるまさん』荒川薫 作 赤羽末吉 絵 1969年7月号 幼いころ、縁側からまっさかさまに落ちて、目の前に広がった縁の下の光景。大人になっても忘れることができない出来事が絵本になりました。(荒川薫) 『てつたくんのじどうしゃ』わたなべしげお 作 ほりうちせいいち 絵 1969年10月号 こわれた三輪車の輪や、大工さんのくれた木切れで無心に遊ぶわが子を見ているうちに、いつのまにか物語が生まれたのでした。(渡辺茂男)
『おなかのかわ』瀬田貞二 再話 村山知義 絵 1975年2月号 村山さんの横向き好み、輪郭線の太さ、色の深さ、構図の角度づけ……。絵本こそ村山さんが生涯に渡ってもっとも愛着のある分野でしたし、この多面な芸術家の原点、ルーツだったと思われるのです。(瀬田貞二)
『クリスマスには くつしたを おわすれなく』角野栄子 作 菊池恭子 絵 1981年12月号 毛糸は長い一本の糸。はじめがあっておわりがあって、手を動かせばその間で必ず何かができあがります。それはまったくお話と同じ。(角野栄子) 続きを読む
『あひるさんの ぼうし』神沢利子 作 太田大八 絵 1982年4月号 あひるは何とも野放図に楽天的。気を病みがちな日々には、このあひるさんのごとく前進せよ、されば道は開かれん、といいたくなります。(神沢利子)
『スロバキア民話 でてきて おひさま』ほりうちみちこ 再話 ほりうちせいいち 絵 1984年2月号 スロバキアは昔から農業が盛んな国。だから、登場するのは農村の動物たち。おてんとうさまも特別なのです。1冊だけの堀内路子&誠一ご夫婦の作品。
『おいしかった おいしかった』岡本良雄 作 長新太 絵 1985年4月号 子どもの日常生活を素材に、写実的な作風を得意とした岡本良雄さん。豊かな人間性、あふれるユーモア、そして、子どもへの信頼感に包まれています。(松居直)
『あーちゃんちは パンやさん』ねじめ正一 作 井上洋介 絵 1986年1月号 古き「人情商店街」を愛するねじめ正一さん&井上洋介さんが、昭和の心温まるパンやさんの一日を描きます。 続きを読む
『コッコさん おはよう』かたやまけん 作・絵 1986年8月号 『おやすみなさいコッコさん』のコッコさんの物語がここにもありました。眠りについたコッコさんが、やっとお目覚めです。
『ぼくのいもうと』浜田桂子 作・絵 1986年11月号 『あやちゃんのうまれたひ』で赤ちゃんだったあやちゃんがちょっぴり大きくなりました。マイペースのあやちゃんのことが気になるおにいちゃんです。
『おっと おとしもの』五味太郎 作 1988年4月号 おもちゃのトラックの荷台がない〜! ボクは道ばたを探していきますが……。見えなかったものが見えてくる? 不思議な五味ワールド!
『ぼくはぞうのはなきち』征矢清 文 中谷千代子 絵 1989年4月号 『かばくん』を描いた中谷千代子さんの最後の絵本。動物への深い愛情でいっぱいです。
この機会にしか手に入れることができないユニークで心躍る50の世界です。 どうぞお気に入りの絵本を探してみてください。 続きを読む
あのねエッセイ(福音館書店)より
今月の新刊エッセイ|川ア康男さん『こどものとも創刊70周年記念 こどものとも復刻版「年中向き」初期50作品』
2026年に、月刊絵本「こどものとも」は、創刊70周年を迎えます。その記念として、このたび「年中向き」初期50作品を当時のままの形で限定復刻しました。長年、こどものとも第一編集部で編集に携わった、元編集長・川ア康男さんに、復刻版「年中向き」初期50作品の魅力やシリーズの特徴について、エッセイを寄せてもらいました。
さあ、物語絵本の世界へ
川ア康男
「こどものとも年中向き」は、「こどものとも」よりも少し年齢の低い読者に向けた物語絵本の月刊誌です。1968年の発刊当初は「年少版こどものとも」*と称し、その後「普及版こどものとも」を経て、1986年から「こどものとも年中向き」となり現在に至っています。「こどものとも」が5〜6歳の年長児をおもな読者対象としているのに対して、「年中向き」は4〜5歳の年中児をおもな対象にしています。子どもたちは年中児くらいになると、主人公にしっかり自分を重ねて物語を楽しむことができるようになります。そこで、「年中向き」は、物語絵本の入り口となるようなシンプルなお話を中心に構成されています。
「年少版」「普及版」と称していた時期は、すでに「こどものとも」で出版された作品の中から、少し年齢の低い読者にも楽しんでもらえそうな作品を選んで再版したものをメインとして、時々新作も加えつつ刊行していました。その後、読者からの要望もあり、編集体制も整うなかで、徐々に新作が増え、「年中向き」となるころには半数ほどが、現在では年10冊以上が新作となっています。
今回は、「年少版」「普及版」「年中向き」の各時期を通して、オリジナル作品として刊行したものを刊行順に50作品とりあげて、こどものとも復刻版《「年中向き」初期 作品》としています。
この復刻版の特徴として、まだ「こどものとも」からの再版作品が多かった時期のものであるため、とりあげられた新作50作品は、1969年から1989年まで、20年という長い年月をかけて刊行されているということがあります。そのために、初期の「こどものとも」を支えてくださった方々から現在活躍中の方々まで、幅広い世代の作者の作品が凝縮されています。その中には、皆さんがよくご存知の作家の、隠れた名作も多く含まれています。
また、この20年は、さまざまなジャンルの作家、画家が絵本に挑戦し、テーマや表現が多様化し、日本の絵本が大きく花開いた時期とも重なります。50冊を見渡すと、オリジナリティー豊かな作品ばかりで、どの1冊もほかの絵本と似ていません。
編集部としても、物語絵本の入り口となる作品を生み出すために、さまざまな試みを行っています。ベテラン作家にあらためてそのような趣旨でお話を依頼することはもちろん、場面数の制約などがあった「こどものとも」創刊初期の作品を、あらためて場面数を増やしたり、新しい作家にお願いしたりして作り直す試み、過去に書かれたお話や海外の作家のお話の中から、ふさわしいもので、まだ絵本になっていないものを探す試みなど。そうした「年中向き」ならではの試みから生まれた作品が数多く含まれていることも、この復刻版の特徴です。
絵本の楽しみがさまざまあるなかで、物語の世界を旅することは格別のものです。そのわくわく、どきどきを子どもたちに味わってほしくて、作り手が全力を注いだ50作品です。
この機会にしか手に取ることのできない貴重な作品が多い復刻版ですが、ぜひ子どもたちと一緒にページを開いてみてください。お気に入りの1冊がきっと見つかります。
* 現在の「こどものとも年少版」とは別のシリーズです。
かわさきやすお●1949年東京生まれ。東京都立大学人文学部卒業後、1973年福音館書店に入社。「こどものとも」のほか、「たくさんのふしぎ」「おおきなポケット」など、おもに月刊誌の編集に携わる。こどものとも第一編集部編集長、月刊誌編集部長などを経て、2021年に退職。
2025.09.03 続きを読む

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