この絵本を読んで、トマス・ハーディーの小説群を読み漁った時代を思い起こしました。
イギリス南東部の湿地帯を舞台にして、話の内容は重厚です。
多分、イギリスの風土の重さと粘着性を理解しないと難しいのではないかと思ったりして…。
この物語の一番のポイントは風景です。
前半に語られる情景描写をしっかりイメージして下さい。
寂しくて厳しくて人っけのない場所にある朽ちた灯台に、「背中に醜いこぶのある孤独な青年」がやってきました。
自然や生き物に心やさしい青年ラヤダーは、人々からは受け入れられることなく一人孤独に絵を描き続けます。
そこに、傷ついた鳥を抱いて訪れた少女フリス。
二人は渡り鳥のスノーグースを縁に知り合います。
傷ついた鳥を治したラヤダーとフリスの重なりあう時間が生まれます。
それは、決して近いものではないけれど、離れ去ってしまうものではなく。
年を経て渡り鳥たちが行き交う中に編まれていきます。
そして少女は女性に成長していきます。
舞台は戦争へと進路を変えます。
世界大戦の中でドイツと戦うイギリス軍。
ドイツの海辺で孤立したイギリス軍兵士を助けに、ラヤダーはヨットで海を渡ります。
兵士たちを助けた後に、自分はヨットで死んで横たわるラヤダー。
ラヤダーをイギリスで見送ったフリスの心には、ラヤダーに寄せる愛が生まれていました。
繊細で、あまりにナイーブな心象風景。
この物語は壮大です。
少し難しいとは思う所もありますが、思春期を迎える青年たちに響いてほしいと思いました。