絵本作家加古里子(かこさとし)さんの経歴を初めて知った時は驚きました。
東京大学工学部で学んだ後、昭和電工という会社で研究所勤務をしていたといいます。
つまりは技術屋さん。
そんな加古さんが絵本作家になったのは会社員になっても続けた社会活動からでしょうが、加古さんの才能を見出した編集者には頭が下がります。
この絵本は加古さんが初めて作品となって出版されたものの復刻版です。
最初に出版されたのは1959年。
有名な黒部ダムが着工したのが1956年(完成は1963年)ですから、昭和30年代の資源は水力発電という時代だったのでしょう。
そんな時代に加古さんはダムのお話を絵本にしました。
動物や架空の生き物が主人公のお話ではありません。
ここの出てくるのは、日焼けしたむさくるしいおじさんたちです。
それでいて、この絵本を読み終わる頃にはこのおじさんたちが大好きになるでしょう。
それは加古さんの視点にあります。
加古さんはこの絵本の中で働く意味の尊さを描くだけでなく、寝転んだり食事をしたり、家族に手紙を書いたりするおじさんたちの当たり前の日常を愛情をもって描いています。
加古さんが活動していた現場にはおそらく「だむのおじさんたち」のような真面目に働く人たちがたくさんいたのでしょう。
そして、この絵本にはブルドーザーやダンプやコンクリートミキサーや働く自動車がたくさん登場します。
これらは男の子たちの大好きなものです。
加古さんは子どもたちの好きなものもよくわかっていたのでしょう。