金箔で覆われた「幸福の王子」の像と旅立った仲間から一羽残ったツバメの話です。
絵本の純文学というか、王子とツバメの物語がきらめく断片を重ねていくように描かれます。
川にそよぐ葦に魅せられたツバメ。
ただの草のしぐさに恋い焦がれるツバメと、葦にしてみればありのままの姿が美しい乙女のように語られるところは詩情たっぷり。
これだけの連想を見事に表現している曽野綾子さんの力の入り方には感嘆するばかりです。
恋は盲目を演じたツバメが、我に返って明るい土地に旅立とうとしたときに知り合った「幸福の王子」。
王子の涙も、王子がかわいそうな人々に自分の飾りから始まり目玉や金箔を渡していくところと、ツバメとのやりとりには不思議な魅力を感じました。
ツバメは王子とのやり取りの中で、自分の命を代償に王子の代わりに人々の悲しみに救いを与えていきます。
ツバメにとっては、人を救うというよりも王子に対する献身に喜びを感じたのだと思いました。
王子は、人の悲しみを知ることができたことが本当の幸せだと語ります。
哀しみを知らない「幸せ」は「本当のもの」でない。(何の絵本だったか「本当のもの」という言葉を思い出しました)
飾りを失い、金箔を失った「幸福の王子」は、人々にとってみすぼらしく価値のないものとなっていくのですが、人々にどう見られても、これほどの崇高な幸せはないでしょう。
最後の部分を原作と変えたという曽野さんの訳。
曽野さんの思いが込められたお話。
建石修志さんの気品ある挿絵とともに、格調高い絵本になっています。