野原にぽつんと灯りがともっているのは、夜の駅。最終列車は通り過ぎたのだけれど、駅員さんのふくろうがそこに住んでいるのです。ところが…
「ん?」
こんな時間に来るはずのない列車の音がする。慌てて外へ飛び出すと、列車がとまり、こぼれ落ちるように降りてきたのは、さっき生まれたばかりだという一羽のひよこ。そのひよこが言うのです。
「ぼく、朝をさがしにいこうと思って」
こうして、ふくろうの駅の不思議な一夜の話が始まります。
不安になってしくしく泣きだすひよこのために、ふくろうはタンスの奥からオカリナを出して吹いて聞かせます。そのオカリナは、ふくろうの家に代々伝わる特別なオカリナで、月にいる「うさまる」を呼び出すこともできるのです。空の月に一つだけある窓が、がたがた震えたかと思うと、そこから顔を出したのは…?
この上なく純粋で、一途な気持ちを背負って現れたひよこ。その小さな輝きに誘われるように、ふくろう自身も色々なことを思い出していき、その思いは月の上にまで届き。幻想的だけれども、その繊細に流れる時間はどこまでも優しくて居心地が良いのです。
この美しい夜の絵本を生み出したのは、詩人で作家の蜂飼耳さんと版画家で画家の竹上妙さん。どこを読んでも情景や色が浮かんでくる文章に、緊張感をもったきらめきで動物たちの表情を印象を力強く描き出す絵。この上ない贅沢な組み合わせによる味わいは、いつまでも忘れることがなさそうです。
そして、最後にやって来るのはいつだってまぶしい光を放つ朝。子どもたちの心にも響いていくのでしょうね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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