うっかり出しっぱなしにした牛乳。食べるの忘れたいつかの残り。段ボールの底で眠るみかん。
気づけば異臭、カビまみれ! 食べ物を、見るも嗅ぐもおぞましい姿へと変身させてしまう、おそろしい菌たち。
でも実は、人に役立つ菌もいる!
そんな菌たちが食べ物を変身させてしまうことを、「腐敗」とは区別して、人は「発酵」と呼びます。これは、奥深い発酵の世界とそれに関わるお仕事を紹介した、科学写真絵本です。
ブドウを酵母菌が発酵させると、ワイン!
カツオをカビ菌が発酵させると、カツオ節!
食べものを腸内細菌が発酵させると……おなら!?
発酵はそれぞれ、カビもそれぞれ! あまりまじまじと観察することのない、カビの意外な姿が収められたたくさんの写真も、本著のみどころのひとつ。
表紙を飾る雪景色のように幻想的な写真は、麹菌の胞子を写したもの。その姿がもやしに似ていることから、麹を作るための種麹はそのまま「もやし」と呼ばれているそうです。黒酢の表面に膜となって浮いている酢酸菌は、顕微鏡で観察した脳細胞のような、なんとも不思議な模様を描き出します。
中でもおどろくのは、伝統的な味噌作りで使う、蒸した大豆をつぶした「みそ玉」の写真です。その表面をすき間なく覆っているのは、ふわっっっふわの、白いカビ! いっしゅん丸まった子犬にも見えるほどの、お見事な毛並みです。
また、藍を用いて布地を染める伝統技法の藍染めや、下水をきれいにするための処理にも、発酵が関係しています。口にするものだけではなく、生活のさまざまな部分で人間を助けている、目には見えない小さな菌たち。本書で彼らの仕事ぶりを追えば、もうカビを見て汚いなんて言えなくなる……かも?
(堀井拓馬 小説家)
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