コルデコット賞受賞作家レナード・ワイスガードによる、少ない色味で控えめに描かれたシカたちと、対照的に表情豊かにユーモアをこめて描かれたトラやキツネがほほえましい絵本。
1961年に刊行された原書の題名は「HALF AS BIG AND THE TIGER」です。
「HALF AS BIG」を訳者の小宮由さんが「はんぶんくん」と訳したシカには、兄さんがふたりいます。ひとりは力持ち。もうひとりは早足。それぞれ木から新鮮な葉をぐっと引っ張って食べられるようにしてくれたり、周囲に危険な動物がないか見て回ってくれたり、頼りになる立派なシカです。
でも兄さんたちの半分の大きさ……「はんぶんくん」にできることはあまりありません。呼ばれたら返事をするくらい。はんぶんくんと呼ばれることがちっとも好きではありませんでしたが、どうしたらいいのかわかりませんでした。
そんなある日、恐ろしげなトラが、きょうだいにじりじりと近寄ってきます。強くて頼りになるはずの兄さんたちが、大きなトラの前では、頼りにならないと悟った「はんぶんくん」は……?
さあ、小さな「はんぶんくん」は、どんなふうにトラと向かい合ったのでしょうか。体ではトラに太刀打ちできません。その代わり「はんぶんくん」が頑張ったのは、勇気を出すこと、頭を使うこと。何度トラが近づいても、諦めずに精一杯声を張り上げる姿にほれぼれします。
絵本を読む子どもたちは、小さなシカを心で応援しながら、大きな体で騙されるトラや、賢そうなのに不運なキツネにも同情したり、共感したりするのではないでしょうか。だんだんまわりの子と自分を比べ出す年中・年長くらいの子たちに一度読んであげたい絵本です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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