海のそばにある、ぼくのふるさとの村。この村には、魚を売る店、くんせい屋、かじ屋に肉屋、居心地のいいカフェにパン屋もある。誰もが海のそばで一生懸命働いている。船大工にあみ職人、ロープ職人、そして魚をさばく人、塩漬けにする樽を作る人。海は、みんなの生活の真ん中にある「心ぞう」だ。
そして夜になると、おそれを知らない漁師たちが村のみんなのためにおいしい魚をとっている姿を思い浮かべる。大きくなったら、ぼくは漁師になる。
けれど……ぼくのとうさんは、漁師じゃない。とうさんは、安全であたたかな建物の中でせっせとパンを焼く。どうして漁師にならなかったんだろう。そんな息子に対して、父親は自分の仕事について話すのです。
この物語の舞台となっているのは、イングランド、サフォーク州のイーストコーストにある100年以上続くにぎやかな漁師の村。少年のモデルは作者の祖父のパーシー。生きること、生活することの中心が海である村では、漁師ではないことに後ろめたく感じる瞬間もあったのかもしれない。けれど、自分たちがどんな風にこの村とつながっているのか、パン屋という仕事がどれだけ大切な役割を果たしているのか、絵本を読んでいるうちに、しっかりと伝わってきます。
抑えた色味の中で丁寧に描かれる、村の人々の仕事や暮らしぶり。そこに差し込むあたたかな太陽の光や、やわらかな表情。仕事について、家族について考える時、もう一度読み返したくなるような、美しく味わい深い一冊です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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