ぼくは夜になると、頭に懐中電灯をつけて、大きな歯ブラシを持って、床下に出かける。そこには大きなワニがいて、歯磨きをするためだ。
ワニはぼくのことをぎろっとにらみ、でも歯磨きだとわかると口を大きくあける。ぼくはかまれないように、持ってきた棒をつっかえぼうにする。巨大なワニの口の中はまるで洞窟のよう。外側を磨いたあとは、口の中に入って裏側もゴシゴシ。長いベロがぼくを巻き込もうとしたり、だんだんと口が閉じそうになっても、七つ道具があるから大丈夫。
このスリリングで不思議なお話を書いたのは詩人・作家のねじめ正一さん。どうして床下にワニがいるのか、いつから歯磨きをするようになったのか。謎の部分を多く残しながら、でも、細かく描かれた家の断面図
や魅力的な7つ道具の絵の描写により、最初からあっという間にこの絵本の世界に引きこまれてしまいます。
ぼくとワニが対峙する場面、大きくあけたワニの口の中をのぞく場面、口の中であおむけになる(!)場面、さらにさらに……緻密で遊び心あふれるコマツシンヤさんの絵はどこまでも具体的。けれどやっぱりそこは幻想の世界であり、最高にワクワクするのです。
ぼくとワニの関係を想像してみたり、続きを考えてみたり。何度も読みながら、そんな楽しみ方もできそうな一冊ですよね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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