めざまし時計の音で夢から覚めたワニは、身支度をし、朝食を食べ、今日も玄関から外へ出かけます。行き交う人々でにぎわいだす街の中、ワニはいつもの道を通り、いつもの人とすれ違い、いつもの駅で地下鉄に乗ります。
駅から出ると花屋に寄り、大好きなパンを買い、雑踏をぬけて向かう先はワニの仕事場です。そこは……?
コマ割りを中心とした表現で、すみずみまで細かく描き込まれた絵には文字がなく、目で追っていくだけでストーリーが浮かびあがってくるこの絵本。穏やかに過ぎていく日常の風景をじっくり味わっていると、ふいにやってくる皮肉の効いた驚きの展開。あまりにも当たり前な振る舞いを見せるワニや登場人物たちの様子に思わず笑ってしまうのです。
絵を描いているのは、前作『まよなかのゆうえんち』でケイト・グリーナウェイ賞の中でも子どもたちによって選ばれるシャドワーズ・チョイス賞2022に輝くなど、いま世界でも注目の作家マリアキアラ・ディ・ジョルジョさん。ワニの部屋の家具や食卓、服装から、その趣味や生活が見えてきます。街の様子からは、あらゆる人々の一日の始まりが見えてきます。さらに詳しく絵を読んでいくと、最初には気が付かなかった誰かさんのサイドストーリーも見えてきます。
子どもはもちろん、大人も楽しい、イタリア発の文字なし絵本。時にはうっとり、時にはじっくり。想像力を働かせながら何度でも読み返してみてくださいね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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