世界が始まり、いくつもの地殻変動を経て、ひとつの山が海からせりあがってきた。
その山は、命が奏でる歌を聞きながら、いつか長い眠りについた。その間、山のまわりでは人が暮らしたり、恐竜が暴れたり、山火事が起きたり。家や仏像が建ったかと思えば、高層ビルに囲まれたり、見知らぬ生物の住処となったり。そして何億年も経ったある日。命の歌が消え、山は目覚めた。
あまりに静かな状況に、山は自ら立ち上がり、歌を探しに動き出す。けれど、どれだけ歩いても、どんなに旅を続けても、目の前に広がるのは石と砂ばかり。探し続けて1000年。疲れた山が元居た場所に帰ろうと歩きだすと、その足もとには……。
地球を舞台に、「世界のはじまり」から、遠く訪れる「未来」へと続いていくこの物語。私たち人間にとっては、あまりにも壮大で果てしない時間が経過していく。けれど、山にとってみれば、絶望の中で歩き回る1000年というのは、ほんの休息の時間。そこで見つけたわずかな希望に対して、焦ることなく、ゆっくりと見つめ、再び歌が聞こえてくるのを待つのです。
自然界の崩壊と再生を描きながら、どこかチャーミングでユーモラスな印象を感じるのは、主人公である山のコミカルなキャラクターと、コマ割りを多用した絵の表現によるものなのでしょうか。これほど長く生き続けている山にとっても、運命的な出会いを感じる場面では、まるでスローモーションのように一つ一つの動作と表情が丁寧に描かれ、いつまでも心に残ります。
添えられるのは、決して多くはないけれど、一つ一つに重みのある言葉。梨木香歩さんの翻訳で味わうことができます。
大地の歴史や環境の変化というのは、目の前で起きている出来事とは違う軸で動いているのかもしれないという事実。今、自分たちがここに生きているのは、奇跡かもしれないという認識。子どもたちにとっても、きっと希望となって心に刻まれる一冊となってくれるのではないでしょうか。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
続きを読む