はるか昔、旧石器時代の大自然の中。山の途中にあるほら穴で火を起こしている家族は、母さん、父さん、じいさん、兄さん、姉さんたち。そして、子ども。
旅や狩りで、くたびれた大人が休むひととき。子どもは目の前に広がる外の世界に引き寄せられるように一歩、また一歩踏み出す。そこにあるのは、自分よりずっと大きな木、自分よりずっと小さな虫。ケモノを真似して木の実を食べたり、ぴょんぴょん跳ねたり、鳥を見て自分の髪につけた羽飾りに触ったり。もじゃもじゃのケモノの横をそっと通り過ぎ、たどりついた川の草をかき分け、向こう岸を眺めたその時。
「むこうにも こどもが いる……?」
目、鼻、口……自分と同じようで、なにかが違う誰か。じっと見つめあった後、むこうの子どもは手をあげて去っていく。
この絵本に登場するのは、今から数万年前に絶滅したネアンデルタール人と、私たち人類の祖先ホモ・サピエンス。物語の中で、静かだけれど劇的な出会いをする少年二人。その瞬間の驚きはどのようなものだったのでしょう。想像を巡らせることも難しいほどの時間を隔てながら、子どもが過ごした一日の感動や喜びが生き生きとダイレクトに伝わってくるから不思議です。
夜、この日の出来事を思い出しながら、ふと灰のついた手をほら穴の壁にペタッと押しつける少年。たとえ彼らがどのような生活をし、どのような文化を持っていたかどうかわからなくても、その手形が今を生きる私たちの心にも何か刻んでくれるようです。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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