海べの町から引っ越して、野原をみわたす丘の上の家で、かあさんと犬のオーホーと一緒に暮らし始めた女の子、キャセレナ。新しい家の外には木が2本、あたり一面にはスノードロップの花が咲き、野原の向こうにある家には、アグネスさんというおばあさんが住んでいる。
「おかあさんから、きいてるわ。
絵をかくのが、だいすきなんでしょう?」
アグネスさんは、庭づくりや物づくりが大好き。自然やアートを愛するふたりはあっという間に仲良くなり、キャセレナは庭のお手伝いをしたり、アグネスさんがつぼを作る様子を眺めたり。アグネスさんが月の満ちかけについて教えてくれると、キャセレナは自分たちクリー族の季節の話をして。そうやって一緒におしゃべりをしながら、ふたりの友情は、季節の移ろいとともに育まれていった。
冬が終わり、やがて再び春が訪れた頃、アグネスさんの体はすっかり弱ってしまっていた。咲きはじめたスノードロップを一緒に見ようと、キャサレナはある方法を思いつき……。
自然に囲まれた、広く静かな風景の中で、感性を響き合わせる女の子と隣の家のおばあさん。心を通わせながら過ごしていくふたりの時間の尊さが、読む人の心の奥底に染みわたってきます。作者は、カナダの先住民クリー族の文化をテーマに数多くの作品を発表している、作家で画家のジュリー・フレット。最後の場面で控えめな光を放つ、クリー語で「カエルの月」と呼ばれる4月の満月の美しさが、いつまでも心に残るのです。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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