この地球をいくつもにわける、見えない線。鳥や魚は自由に行き来できるけれど、船や飛行機では自由にこえられない線。
それが、国境。
それはときに、山や川であり、人のつくった巨大な壁であり、ただの木の杭やベンチ、ということもあります。ふたつの国の兵士たちが、互いを見張っている国境があるかと思えば、その場所で市場がひらかれている国境もあります。
人々の生活を分け、文化を分け、法律を分ける境目。本作は、そんな国境を隔てて出会う人々のさまざまな姿を通して、現代の世界のあり方を描き出した一冊です。
海で囲まれ、陸で他の国と接していない日本において、国境は海の上に設定された、目に見えない境界線です。それが手に触れられる強固な壁として立ち塞がり、すぐ向こうで別の国の人々の生活が見える様子や、あるいは逆に、街のど真ん中を国境が横断して、だれもがその上を自由に行き来しているというのは、リアルに想像するのが難しい光景だと思います。
国によって、あるいは、となりあう相手の国との関係によって、国境というものの捉え方はこんなにも違うものなのか! 本作はそんな新鮮なおどろきに満ちています。
ダイナミックなイラストも圧巻! 朝焼けか夕焼けか、朝と夜のあいだで不気味に赤く色づいた空。見開きのページいっぱいに広がる荒れた海と、その中を頼りなく漂う、人がぎゅうぎゅうに乗り込んだ一艘のボート。国境を越えて外国へ脱出する難民の姿を描いたそのページには、思わず息を止めて見入ってしまうほどのパワーにあふれています。
ほんの数十年のうちにインターネットは世界をつなげ、日々進化するテクノロジーが、人々のあいだにある距離や言語の壁をどんどん小さくしています。そんな世界で、国境により隔てることのできないもの。国境を越えて、互いにつながりあっているもの。いいものの、悪いものもふくめて、本作の最後にはそんな「国境のないもの」たちについて語られます。
「わたしたちは、こんなふうに国境をこえてやってきた、
いろいろなもののなかでくらしている。
200をこえる国ぐにとともに、
地球というひとつの星の上で。」
2021年韓国出版文化賞受賞! 国境を通して知る、世界の今≠フ、ある姿。
(堀井拓馬 小説家)
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