ラジオやテレビ、漫画もなかった昔って想像できますか?
天気のいい日はスキーやそり遊び。でも、吹雪や雪に閉じ込められることが多い、昔の北国の子どもたちの楽しみは、お年寄りが語ってくれる昔話でした。
こたつやいろりのそばで、お年寄りがその土地の言葉で語り継ぐ、昔話や里山の不思議なお話――そんな文化が、いま消えさろうとしています。
なんげえはなしっこしかへがなー―長いお話を話してやろうかな、というタイトルがつけられた本書には、津軽弁で語られる昔話が7篇収められています。
長い長いへびが山の向こうに遊びに行く話、かっぱが泳ぎを教えてもらう話、かみなりさまのふんどしを引っ張ってしまった人間のお話、鬼ばばとおしょうさんの知恵くらべ――。
子どもなら胸をときめかせずにはいられない、ちょっと怖くて、どうなっちゃうんだろうとドキドキするようなお話ばかりです。
本書を開いたら、ぜひ声に出して読んでみてください。
ガアってば ポタン、ガアってば ポタン。
ガア ポタン ガア ポタン
せみぁ ミン ミン ミンってば、
やまばとぁ デデッポッポ。
ミン ミン ミン デデッポッポ
ミン ミン ミン デデッポッポ
ミン ミン ミン デデッポッポ
津軽弁を知らなくても、リズミカルに読めませんか?
そして、同じ言葉の繰り返しが多いのは、「果てなし話」と言われる昔話の手法だそうです。お話をするたびに、子どもたちが「もうひとつ!」「もっとお話しして!」とせがむ。ところが、おばあさんが語るお話は、いつまでたっても同じ言葉の繰り返し……。
「まだ終わらないの〜?」という子どもに、「くりの実ぁ、何千何万もあるんだ。まだ二十より落ちてねえんだよ。ガア ポタン……」と続けるので、「もういい」と子どもたちが自らこたつを飛び出すそうです。いやはや、なんてユニークな大人の知恵なのでしょう!
著者の北彰介さんは、子どものころ、おばあさんが語ってくれた津軽弁とともに昔話を記憶しているそうで、「方言の語り口の中に、昔話のおもしろさと生命力がひそんでいるように思う」とあとがきに書いています。
著者の記憶には、声と音と物語、そしておばあさんと一緒に過ごした時間が分かちがたく残っているに違いありません。
寒くて暗い時間を、いかに楽しく笑って過ごすか。
昔からの知恵や土地の伝承をいかにして伝えていくか。
人間のたくましさ、物語の力をぞんぶんに味わえる絵本です。
(絵本ナビ編集部)
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昔、津軽では、おじいさんやおばあさんは子どもたちに次々にお話をせがまれると、「なんげえはなしっこしかへがな」と言って、「からすがガア くりの実がポタン」「はちがブンブン」などの繰りかえしが延々と続く「果てなし話」を語りました。なんとも愉快な昔話を、北彰介氏の生き生きとした津軽弁と、太田大八氏の味わい深い絵でお届けします。
北彰介氏は、あとがきで次のように語っています。「文章は、津軽弁ですが津軽弁のまねをする必要はありません。熊本の人は熊本の、京都の人は京都のアクセントやイントネーションで『なんげえはなしっこしかへがな』を読んで(語って)ください」
●本書収録「くりの実」の朗読を聞くことができます。
BL出版ホームページ www.blg.co.jp/blp
津軽弁・語り部 野澤秀昭さん(青森県児童文学研究会会長)
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