一軒の家の玄関で、ぎこちなくあいさつをかわす二つの家族。大きな荷物をかかえ、遠い国からやってきたブラディの家族と、もとからこの家に住むトマの家族。ブラディたちは、この家の地下室に住むことになったのです。
ブラディはぎゅっと身をかたくしたまま、出された夕食を一口も食べません。トマの大好きなチーズオムレツです。トマには、どうしてブラディがオムレツを食べないのか、どうして普段物置きだった部屋に彼らが住むのか、どうしてお気に入りだったカバンをブラディにあげなくてはいけないのか、全くわかりません。
一方ブラディは、初めて目にする食べ物を“くさい”と感じ、地下室に住むことにも、おさがりのカバンをもらうことにも腹を立てています。ブラディの家族は、戦火を逃れ、この国に“難民”としてやってきたのです。
「まえのほうがずうーっとよかった。家だって…」
育った国の暮らしを思い出し悲しむブラディ、その様子をじっと見ていたトマ。どう声をかけていいのかわからなくて、大きな声を出しながらひとりで海賊ごっこを始めます。やがて、ふたりは遊びながら少しずつ心を通わせていき……。
「たたかい」や「ふね」、同じ言葉でも二人が思いうかべるのは、まったく違う世界。トマは戦場など見たことがないのです。わかりあえなかった二人が、それでも少しずつ共感していく様子を、和らいでいく表情や絵の中で丁寧に描き出していくこの絵本。「難民」という言葉に対してフラットな子どもの目線だからこそ、相手の言葉に耳をかたむけ、想像し、理解を深めていくことの大切さがまっすぐに伝わってきます。
「違いは違いとして大切にしていくこと」。巻末には、フォトジャーナリストの安田菜津紀さん、訳者のふしみみさをさんの言葉が寄せられています。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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