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点字つき絵本の出版と普及を考える会 記念連載Part2出版社合同 インタビュー

「目の見えない人と見える人がいっしょに絵本を楽しめるようになること」を目指して、2002年に発足した「点字つき絵本の出版と普及を考える会」。第2回は、「てんやく絵本ふれあい文庫」の岩田美津子さんとともに、「点字つき絵本」の出版に挑み続けている出版社の皆さんにお話を伺いました。


連載Part1はこちら>>

「ともかく、実際に点字つき絵本作りをスタートさせようと思いました。」小学館 北川さん

てんじつき さわるえほんシリーズ きかんしゃトーマスなかまがいっぱい
出版社:小学館

点字つき絵本。人気キャラクター、きかんしゃトーマスのなかまたちを、楽しいイラストと点字で紹介します。蛇腹折りの丈夫なつくりで、目の見える子も見えない子も、一緒になって楽しめる絵本です。

てんじつき さわるえほんシリーズ ドラえもんあそびがいっぱい!
監修:藤子プロ
出版社:小学館

点字つき絵本。隆起印刷を使用。ドラえもんのなかまたちを紹介して、秘密道具を使って絵さがし、迷路などをして遊びます。蛇腹折りの丈夫なつくりで、目の見える子も見えない子も、一緒になって楽しめる絵本です。

───第1回では、点字つき絵本を出版するにあたって、通常の絵本よりも印刷や製本にコストがかかることを伺いました。しかし、田中産業さんの技術によって、今まで主流であったリング綴じ製本から、じゃばら絵本ができるようになり、コスト問題に少し光が差したように思われたのですよね。

小学館・北川:そうです。そこで、ともかく実際に市販の点字つき絵本を出版してみようと試みたのが、会発足から5年たった2007年のことでした。

───どの作品を点字つき絵本にすることにしたのですか?

小学館・北川:「点字つき絵本の出版と普及を考える会」に参加する前、私は幼児向けの雑誌を作る部署にいました。そこで子どもたちに人気の「きかんしゃトーマス」や「ドラえもん」などキャラクターを扱う仕事をしていたので、点字つき絵本を作るなら、この2冊だろうと思い、企画を進めました。はじめは、普段本を作る要領で、構成を考えていけばすぐできるだろうという軽い気持ちでいました。 でも、岩田さんやほかの視覚障がいの方に企画途中の作品を見てもらううちに、自分の考えがいかに甘かったか、痛感することになったんです。


小学館の北川吉隆さん

───特にどんなところが大変だったのですか?

小学館・北川:例えば、絵の構図。目が見えない方にとって、奥行きのある描き方の絵は触っても分かりにくい。さらに、キャラクターが重なっている絵もひとつの大きな塊のように認識してしまうので、使えないということも、制作していく途中で分かってきました。

───つまり、真正面か真横、キャラクターひとりひとりが離れている絵が良いということですか?

小学館・北川:そうです。でも、「きかんしゃトーマス」は斜めから見た構図が一般的ですよね。この決めポーズが不適当と分かったときは、正直、頭を抱えました。結局、最初に考えた構成をすべてボツにして、新たにコンテから考えることになりました。

───なるほど……。ほかに、制作していく中で気づいたことはありますか?

小学館・北川:絵が大きすぎると、手で触って形が認識しにくいので、なるべく一度に触れるくらいのサイズにすること。それと、文字の配置も変えました。最初はページのいろいろな位置に文字を配置していたのですが、それでは、目の見えない読者が点字の存在に気づかないことがある。なので、常にページの同じ位置に文字があるようにした方が良いということでした。

───そうして出版されたのが、『てんじつき さわるえほん きかんしゃトーマス なかまがいっぱい』と『てんじつき さわるえほん ドラえもん あそびがいっぱい!』ですね。実際に出版をしてみて、周りの反応はいかがでしたか?

小学館・北川:会から出たはじめての絵本ということで、とても喜ばれた一方、私の作った構成の甘さも指摘されました。絵や文字の配置や大きさが不完全であることが分かってきたのです。改めて、点字つき絵本は一朝一夕ではいかないと感じました。

───それでも、じゃばら絵本が市販化され、書店で販売することができるという、大きな一歩を刻んだという意味では、とても重要な作品だと思います。

岩田:もちろんそうです。「きかんしゃトーマス」と「ドラえもん」は子どもたちの話題に必ず出てくるキャラクター。この2冊が出たことで、見えない子も見える子と同じ話題で話ができるようになりましたから。

「触図のポイントは、省略するところと離すところを見極めること」こぐま社 関谷裕子さん

てんじつき さわるえほん しろくまちゃんのほっとけーき
てんじつき さわるえほん しろくまちゃんのほっとけーきの試し読みができます!
作:わかやま けん もり ひさし わだ よしおみ
出版社:こぐま社

大人気のロングセラー絵本『しろくまちゃんのほっとけーき』が、点字つきの絵本になりました。元の絵本と違い、絵の下に点字つきの文章がついていますが、文も絵も省略されていません。ストーリーや鮮やかな色彩はそのままに、透明な樹脂インクで絵の部分も特殊な隆起印刷をほどこしました。こぐまちゃんとしろくまちゃんの違いや、ほっとけーきが焼けていく過程なども、さわってわかります。見えない人も見える人もいっしょに楽しめるバリアフリー絵本です ◆◆こんな場面にお薦めしたい絵本です◆◆ 視覚障害のある大人が健常の子どもに絵本をよむとき・視覚障害の子ども自身が絵本を楽しみたいとき・触ることの大好きな赤ちゃんに・点字に興味がある小学生、先生に・学校の点字の授業に・視覚障害がある子どもと健常の子どもが一緒に絵本を楽しみたいときetc・・・

───小学館さんに続き、点字つき絵本を出版したのは、こぐま社さんとのことですが……。

こぐま社・関谷:こぐま社は絵本でも人気の『しろくまちゃんのほっとけーき』を「てんじつき さわるえほん」として発売しています。この作品を選んだ理由としては、先ほど、岩田さんがおっしゃっていたように、保育園や幼稚園で誰もが一度は読んでもらったことのある絵本を、目の見えない子にも、見える子と同じように読書体験をしてほしいと思ったからでした。

───『しろくまちゃんのほっとけーき』はすでに絵本として出版されている作品の点字つき絵本化ですよね。ゼロから点字つき絵本を作るのとは、また異なる苦労があるように思います。

こぐま社・関谷:既刊の本を点訳する場合、一番ネックになるのがページ数の問題だと思います。じゃばら製本は、その構造上、10ページが最適とされています。でも、通常の絵本は20ページ以上あります。どうしても内容を省略する場面が出てきてしまうのです。『しろくまちゃんのほっとけーき』も20ページの絵本ですので、本来であれば、どこかページをカットしなければなりません。しかし、幸い片方が文字だけのページだったので、絵と文字を1ページにまとめることで、内容や絵を割愛することなく、すべて載せることができました。


こぐま社の関谷裕子さん

───子どもたちが大好きな、ホットケーキが焼ける場面も、忠実に再現されていますね。制作の中で苦労したことはなかったのでしょうか?

こぐま社・関谷:たくさんありました(笑)。特に苦労したのが触図の部分。お母さんとしろくまちゃんが並んでいる部分は、絵では重なっているのですが、触図では離さないと分からないことなど、描いてある絵とは違う表現をしなければならないところが大変でした。印刷会社さんに盛り上げ印刷部分のサンプルを作ってもらって、実際に岩田さんたちに協力していただき、何が描いてあるか分かるかを、何度も確認しました。

───見えない方に確認してもらうことで、いろいろ分かることもあったのではないですか?

こぐま社・関谷:そうですね。例えば、絵に描いてあることを、すべて正確に触図に起こさなくても良い、ストーリーにとって重要でない絵は省いた方が分かりやすいこともあることを教えてもらいました。省略するものは省略する。離すものは離す。この見極めを学びました。

───2009年に『てんじつき さわるえほん しろくまちゃんのほっとけーき』は出版されました。出してみて、周りの方の反応はいかがでしたか?

こぐま社・関谷:おかげさまで、少しずつですが順調に売れていて、2016年の春で4刷をすることができました。ただ、絵と触図がずれている理由が本には解説していないため、「こういう絵本は、この程度のクオリティーなんですね」というハガキをいただくこともありました。

───それは悲しいですね。

こぐま社・関谷:触っていただいて、その理由を想像するところまで、いくことができれば良いのですが、私も最初、まったく分からなかったように、なかなかそこまで見えない人の受け取り方が想像できないのが残念なところです。でも、今後は、これらの本が自分と違う立場の人の、物の楽しみ方を理解していく橋渡しになればと思います。

「復刊が叶った、世界的にも有名な点字つき絵本」 偕成社 千葉美香さん

さわる絵本 これ、なあに?<新装版>
作:バージニア・A・イエンセン ドーカス・W・ハラー
絵:バージニア・A・イエンセン ドーカス・W・ハラー
訳:きくしまいくえ
出版社:偕成社

絵の部分が隆起印刷になっている触って楽しめる絵本。目の見えない子と見える子が一緒に喜びを共感できる画期的な作品、新装版。

さわる絵本 ちびまるのぼうけん <新装版 >
作・絵:フィリップ・ヌート
訳:山内 清子
出版社:偕成社

点字つきで絵の部分の輪郭が隆起している触って楽しめる絵本。形の認知や数の要素も盛り込まれたシンプルな絵本、新装版。

───偕成社さんは、かなり早い段階から、「障がい者を理解する絵本」を出版していると伺いました。

偕成社・千葉:偕成社では1970年代から、「障がい者を理解する絵本」として『わたしたちのトビアス』(セシリア・スベドベリ/編、山内清子/訳)や『さっちゃんのまほうのて』(たばたせいいち、先天性四肢障害児父母の会、のべあきこ、しざわさよこ/共同制作)などを出版していました。その中で、1979年に出版したのがデンマークからやってきた点字つき絵本『これ、なあに?』(イエンセン、ハラー/作、きくしまいくえ/訳)と『ちびまるのぼうけん』(ヌート/作、山内清子/訳)でした。

───市販化された点字つき絵本としては、日本初ということでしょうか?

偕成社・千葉:そうではないかと思います。この絵本は、点字や絵柄の隆起印刷にリング綴じ製本ということで、海外製作して輸入しました。しかしその後、海外で製作していた印刷所がなくなってしまい、1998年以降、品切れ状態が続いていました。しかし、日本をはじめ海外でもとても高い評価を得ていた作品なので、弊社はこの2冊を復刊することを目標にしました。


偕成社の千葉美香さん

───先ほど、製本のお話の中で、リング綴じ製本はとてもコストがかかると伺いましたが……?

偕成社・千葉:復刊にあたり、コストの問題ももちろんありました。さらに1979年当時に使っていた印刷用の版もなく、現物の絵本からしかデータを起こすことができないなどの問題も発生しました。それでも、2007年に無事2冊を復刊することができました。

───『これ、なあに?』と『ちびまるのぼうけん』は海外でも高い評価を得ていた作品とのことですが、どの部分が特に評価されているのでしょうか?

偕成社・千葉:一番のポイントは、目の見えない子も見える子も同じスタート地点に立って、楽しめることではないでしょうか。『これ、なあに?』に登場するのは「ザラザラくん」や「バラバラくん」など、触って楽しむオリジナルキャラクター。「ザラザラくん」と一緒に「バラバラくん」を探す中で、「ポツポツちゃん」や「しましまくん」など触感の異なるキャラクターを認識しながら、ストーリーを楽しむことができるんです。

───確かに、触って違いを楽しむことで、おはなしの盛り上がりが変わってきますね。この復刊絵本が出たのが2007年。同じ時期に、とてもインパクトのある「てんじつきさわるえほん」も出版されていますよね。

偕成社・千葉:『点字つきさわる絵本 はらぺこあおむし』ですね。これは、絵本『はらぺこあおむし』とまったく同じものを目の見えない子にも楽しんでもらおうと、インドで企画された作品です。

───インドですか? 絵を表現するため素材の異なる布が貼ってあって、とても豪華な絵本だと思いました。

偕成社・千葉:この絵本は2007年に出版し、一時は品切れ状態になっていますが、2016年に満を持して、復刊することが決まっています。当時ご存知なかった方も、ぜひご覧いただきたいと思います。

───それはとても楽しみですね。

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