コンビニでお菓子を100円分買ったことをきっかけに、お金に興味を持った「ぼく」とお母さんがはじめた「100円たんけん」。
このおはなしは、中川ひろたかさんが保育士をされていた頃、実際に子どもたちと商店街を「〇〇を、10円分ください」といって回った経験が元になっているそうです。
今回は絵を担当した岡本よしろうさんに『100円たんけん』を制作していたときのお話を伺いました。
コンビニで、おかしをおねだりしたら、「100円までよ」って言われた。 100円ショップに行ったら、なんでも100円だった。 じゃあ、よそのお店では、100円で何が買えるのかな? ぼくとお母さんは、商店街をたんけんしてみることにした。 名付けて…100円たんけん! はかりうりしているお肉屋さんで、100円ぶんのお肉を買ってみよう。 魚屋さんに100円で買えるものはある? 1800円のケーキ、100円ぶんならどのくらい? 八百屋さんは? お寿司屋さんは? パンやさんは? 子どもたちにとって身近なねだん「100円」で買えるものをくらべてみながら、 お金のやくわりや、もののねうちについて、考えるきっかけをくれる絵本。 読めば、ふだんのおこづかいの見方がちょっと変わるかも!? 親子で楽しめる、はじめてのお金絵本です。
●『生きる』を見た編集者さんが、ぼくのことを指名してくれました。
───岡本さんと中川ひろたかさんの共著は、『ごはんのにおい』(おむすび舎)や『おうち』(金の星社)、『あみ』(アリス館)……すでに4冊にもわたりますね。その記念すべき1冊目が、『100円たんけん』ですね。
そうです。2013年に谷川俊太郎さんの詩に絵をつけせていただいた『生きる』が、月刊「たくさんのふしぎ」(福音館書店)として刊行されたのですが、それを見て、くもん出版の編集者さんが声をかけてくれたんです。
2015年に横須賀市にある「うみべのえほんやツバメ号」で絵本原画展をさせていただいたとき、会場に来てくださって「岡本さんにお願いしたい作品があるんです」と言われました。
───それが、『100円たんけん』だったのですね。
そのときはタイトルが違っていて、『100円のねうち』でした。
───文章を読んだとき、どう感じましたか?
このおはなしは、中川ひろたかさんが、子どもたちと一緒にやった「商店街で10円分で買える物を買ってこよう」というイベントが元になっているらしいのですが、最初にサラッと読んだときは、「あれ? これは面白いんだろうか……」とよく分かりませんでした。
でも、いざラフを描くぞとなったとき、改めてテキストを読み返したら、頭の中に物語の絵がわーっと湧き出てきたんです。このときはじめて「これが文と絵が一つになって成立するプロの絵本作家の文章なのか……」とビックリしました。
その通りにラフに落とし込んで編集者さんにお見せしたら、ほぼ修正なしでOK!と。
───そういう経験はその後の中川さんとの作品でも感じたのでしょうか?
そうですね。中川さんの文章はすぐに絵が見えます。
テキストが「こういう絵を描けって言ってるよね……」という感じです。
おそらく中川さんとぼくの思考回路が似ていて、相性がとても良いのだと思います。
───『100円たんけん』は主人公の「ぼく」が、お母さんと商店街に行って100円で買えるものを調べるというおはなし。
物語の舞台となる商店街のお店がとてもリアルで、お店で働いている人も個性があって、ページをめくる度に、「次は何屋さんに行くんだろう?」と、とても楽しめます。
おはなしに出てくる商店街のモデルは戸越銀座商店街です。
ぼくが依頼を受ける前に、中川さんと編集者さんは戸越銀座商店街に行かれて、実際におはなしに登場するお店の写真を撮ったり、お話を聞いたり、取材をされたそうです。
なので、ちょうどその一年後、ラフを描く前にぼくも、編集者さんと一緒に取材に行かせてもらいました。
───中川さんがおはなしを作るときに参考にされた商店街を、岡本さんも取材されたんですね。実際に足を運んでみていかがでしたか?
中川さんが取材をしたときはプロのカメラマンが同行されていて、その時の写真も参考にさせていただいたのですが、自分で足を運ぶと、商店街の雰囲気を肌で感じて、また違った発見がありました。
ぼくも編集者さんと一緒に「100円たんけん」をしたんですよ。
───そうなんですね! それは楽しそうです。
お寿司屋さんで「100円分お寿司をください」って言ったら、100円分のお寿司を作ってくれました。絵本のあのページはそれをそのまま描いただけです。
パン屋さんでパンを買って、絵本には登場していませんが、和菓子屋さんで団子を買って……、商店街の待合室みたいなところで、100円で買ったものをいろいろ並べてお昼ご飯にしました(笑)。
───絵本に出てくるお店や、働いている人などは、商店街に実際にあるお店や人をモデルにしているのでしょうか?
そうですね。魚屋さん、八百屋さん、ケーキ屋さんのおじさんたちは、実際のお店の人をモデルに描いたので、だいたいあんな感じです。
魚屋さんは商店街でも名物キャラクターみたいで、似すぎてしまったので、ちょっと変えたりしました。
───そして注目すべきはパン屋さん……。これ、中川さんですよね?
やはり分かりますか……(笑)。実は最初、このパン屋さんは普通のパン屋のおじさんを描いていたのですが、編集者さんから「どこかのページに中川さんを入れてほしい」と言われて、ここしかないなぁと。
───中川さんご自身はこの絵に何かおっしゃっていましたか?
「これは似てる」って言ってくださいました。「ぼくから毒を抜いた状態だ」って。
実はパン屋さん以外にもう1か所、中川さんが登場しているところがあるんです。
───え? そうなんですか? どこだろう……。
ヒントはコンビニのラーメン売り場です。それから、中川さんと制作した他の3作品にも必ず中川さんが登場しているので、ぜひ探してみてください。
───岡本さんの絵は、いろいろ描き込まれているので、そういう遊びを見つけるのが楽しいです。ほかに、絵の中で発見してほしいものはありますか?
そうですね……コンビニにいた人が、100円ショップや八百屋にも行っていたり、見返しは後日談として、いろいろな人が登場していたりします。
───細かいところまで考えて、丁寧に描かれているのが伝わってきます。絵を描くときに特に大変だったページはありますか?
お店の商品とか細かいものを描くのは物量的に時間がかかりました。
あとは意外とコンビニの裏側からお菓子を選んでいる「ぼく」のシーンで、棚を前から見た時と後ろから見た時の整合性を持たせるのが、面倒臭かったですね(笑)。
───原画をすべて描き終えるのにどのくらい時間がかかりましたか?
商店街の取材に行ったのが5月の初めで、発売がその年の10月でしたから、7月には原画をお渡ししていたと思います。
描き上げるのにかかった時間は1カ月半くらいだったかな……。
───これだけ描き込みの多い作品を1カ月半で! すごく早いですね。
この頃、原画はだいたい5週間で描きあげていました。
当時、締め切りは絶対で、それを守らないとこの先、絵本業界では生きていけないと思いこんでいましたから……(笑)。
制作中はほとんど外出せずに引きこもります。……今はもう、体力的にあの頃のような追い込み方はできないですね。
───絵を描いているときは、静かな部屋で描いているのですか? 音楽を聴いたりしますか?
ぼく、いつも作品を作る前に自分を鼓舞するためにテーマソングを作っているんです。
パソコンで打ち込んで、ボーカロイドに歌ってもらうんですが、『100円たんけん』のときもテーマソングを作りました。
───すごいですね! では制作中はずっとそのテーマソングを聴いていたんですか?
実は、このとき一番よく聴いていたのは、中川さん作曲・新沢さん作詞の「にじ」という曲なんです。この曲のヘビーローテーションで『100円たんけん』が出来上がりました。
───とても大らかな気持ちで、筆が進みそうです。
テーマソングを作る以外に、絵本を作る前の習慣になっていることはありますか?
そうですね……普段から立体を作ることが多いのですが、絵本に出てくる建物や部屋の模型を作って、絵を描くときの参考にしています。
『100円たんけん』のときは、主人公のぼくとお母さんの立体を作りました。
ブタの貯金箱は、この絵本のためにネットで取り寄せました。
───お母さんとぼく、とてもかわいいですね。この二人にはどなたかモデルはいるのですか?
男の子は特にモデルはいませんが初めからこのスタイルが決まっていました。
お母さんは外見は違いますが、中身は大学時代の同級生(3児の母)がモデルです。