秀吉のおさめる大坂城に、おおきな、おおきなバケモノがいるらしい──
人々をさわがせる噂の正体は、大坂城で生け捕りにされている、巨大な虎でした。
秀吉は家臣に、キジや野ウサギ、タヌキ、そして果ては犬までを近くの村々から集めさせては、それを虎にエサとして与えていました。
虎のオリに入れられた犬は、震えあがって逃げ出します。
しかし、せまいオリのなかで、虎から逃げられるはずもありません。
そのうちに聞こえてくる、犬の悲鳴と、虎のうなり声……
ところがその日、虎の世話係である気弱な少年、安吉が見たのは、意外な光景でした。
エサとしてとらえられたはずの、やせ細った白い犬。
彼は逃げるでも、おびえるでもなく、まっすぐに虎とにらみあったのです。
「あの犬は、虎にいどもうとしている。虎のすきをうかがっている──」
犬が虎に勝てるわけはない。しかし、もしも秀吉さまの虎がケガでもしたら……
安吉はすぐに助けを呼びますが……助けるのは虎? それとも、犬? それに、いったい誰に助けることなどできるというのでしょう。
こうして火蓋を切って落とされた、おおきな虎とやせた犬の戦い。
犬の勇気と、生きる意志。それはいったい、どこから湧いてくるのか?
彼には、帰らなくてはならない場所があったのです??
大阪市内や、大阪府北部の能勢町で伝わる民話をもとに描かれる、歴史エンターテイメント!
飢えないために、その日その日を働き通して生きる、貧しい村。
バケモノと噂されるほどおおきな虎が生け捕りにされた、豪華絢爛な大坂城。
物語の舞台を移しながら、それぞれの場所で白い犬とであう、少年少女の運命を辿ります。
犬を主人公にした物語ということで、飼い主との絆や献身的な愛情がテーマとして描かれているのはもちろん、みどころとしておおきく紹介したいのは、生きることと逆境に対する、犬の姿勢!
物語の主人公である犬はちいさく、やせていて、決して強い犬ではありません。
そんな彼に備わる武器は、賢さと勇気。
虎の他にもこの物語には、彼が戦わなければならない敵が現れます。
寒さと飢え、村の人々の偏見の目、農作物を荒らすオオイノシシ……
時に救われ、時に独りで、それらの敵に対峙する白い犬。
その姿勢は誇り高く、生きねばという強い意志にあふれています。
果たして、犬と虎の対決はどんな結末を迎えるのか?
そして、犬とであったことでその運命をおおきく変えた、ふたりの少年少女たちの行方は?
今日を戦い、明日を生きる、勇気に満ちた物語です。
(堀井拓馬 小説家)
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