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夏の雨

パパ・70代以上・埼玉県

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夏の雨さんの声

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自信を持っておすすめしたい この絵本に流れる静謐な時間   投稿日:2015/03/22
まばたき
まばたき 作: 穂村 弘
絵: 酒井 駒子

出版社: 岩崎書店
 絵本制作の現場を知らない。
 例えば、絵本作家と呼ばれる人であれば、文も絵も一人で担当して一冊の絵本を造る。
 では、文と絵が別々の作家だと、どういう割り振りになるのだろう。
 文を担当する書き手が文章だけを書き、書かれた文章にイメージを膨らませて絵を担当する絵描きが描いていくのだろうか。
 あるいは、文を担当した書き手が絵描きにここにはこういう絵を描いて欲しいとお願いをするのだろうか。

 この絵本の場合、文を担当しているのは、短歌界の新しい波を築いて、現代短歌の第一人者でもある穂村弘さん。絵は、自身絵本作家として多くの絵本を造り、本の装丁にも多くの作品を提供している酒井駒子さん。
 そんな二人が一冊の絵本を造ったのだから、どんな風にして出来上がったのか興味が尽きない。

 何しろこの絵本には、「しーん」「カチッ」「はっ」「ちゃぽん」「「みつあみちゃん」」、これだけの言葉しかない。
 文を書いたのは穂村弘さんであるのは間違いないが、これだけで酒井駒子さんが絵をイメージしたのだろうか。
 例えば、「しーん」には、花の蜜を吸う紋白蝶が描かれている場面が2枚。もう1枚は、その花から飛び去る紋白蝶が描かれている。
 一方は「しーん」の三文字、対する絵描きは3枚の絵を描く。
 これは読者としての私の推測だが、穂村さんと酒井さんは何度も打ち合わせをしたのではないだろうか。
 「しーん」という言葉に込めた意味を穂村さんが酒井さんに説明する。酒井さんが最初の図柄を描く。穂村さんがこういうのはどうだろうと提案する。酒井さんが、それではと描き直す。
 そういう工程があって、「しーん」に紋白蝶が描かれたのではないだろうか。
 あくまでも、絵本制作の現場を知らない読者の思いではあるが。

 穂村さんがこうして欲しいと譲らなかったのは、最後の「「みつあみちゃん」」という言葉の絵だと思う。
 この絵本のタイトルが「まばたき」とあるように、「みつあみちゃん」がたった3枚の絵で老婆に変わるのは、「まばたき」をするだけのわずかな時間。
 穂村さんはそれだけは譲らなかったのではないでしょうか。
 なんとも奥深い絵本だ。
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自信を持っておすすめしたい かおるちゃんが待っててくれた   投稿日:2015/03/16
トリゴラスの逆襲
トリゴラスの逆襲 作・絵: 長谷川 集平
出版社: 文研出版
 1954年(昭和29年)に封切りされた映画「ゴジラ」は大ヒットとなり、翌年にはその続編が作られています。
 題して、「ゴジラの逆襲」。
 この時のゴジラは1作目のゴジラとは別の個体として設定されていて、新たにアンギラスという怪獣と戦っています。
 つまり、一度は人間の叡智によって退治されるゴジラですが、再び日本を襲ってくるというので「逆襲」と付けられたのでしょう。
 長谷川集平さんの絵本『トリゴラス』は退治をされたわけではないのですが、再び登場するということで「逆襲」と付けられています。
 『トリゴラス』の出版が1978年、そしてその続編であるこの絵本が刊行されたのが2010年。実に32年の歳月を経て、続編が発表されたということになります。

 ある夜、大きな風の音を聞いた少年は「トリゴラス」が町にやってきたことに気づきます。
 そして、「トリゴラス」は少年の大好きなかおるちゃんを連れ去って去っていきます。
 ここまでが、最初の絵本のお話。
 そして、ここからが続編の絵本のお話になります。
 また別の夜、少年は大きな風の音を聞きます。「トリゴラス」だということを少年はすぐに気づきます。
 今度はなんと少年の家に「トリゴラス」がやってきて、少年をかおるちゃんの時のように連れ去るのです。
 「トリゴラス」が向かったのは、遠い南の島。
 なんとそこには、かおるちゃんがいるではありませんか。

 しかも、続編のかおるちゃんはすごく色っぽくなっています。
 かおるちゃんは少年にこう告げます。
 「これね、わたしのゆめのなかなの」。
 ええーっ、かおるちゃんがそんなこと言っていいのでしょうか。
 「あなたといつかこうしてふたりきりになりたかった。」なんて。
 かおるちゃんの夢ではなく、少年の夢です。
 少年の夢ですから、少年は色っぽいかおるちゃんをどうしてもいいのですが、町が「トリゴラス」の襲われていることを思って、こんなことではいけないとかおるちゃんには何もできません。

 長谷川修平さんは32年ぶりに「トリゴラス」の続編を描いて、結局少年の性を開花させることはしませんでした。
 「ゴジラ」シリーズでは第3作めでキングコングと対決するのですが、果たして少年の欲望はキングコング化するのでしょうか。
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自信を持っておすすめしたい 追悼・タラス・テイラーさん − バーバパパは永遠です   投稿日:2015/03/08
おばけのバーバパパ
おばけのバーバパパ 作: アネット・チゾン タラス・テイラー
訳: 山下 明生

出版社: 偕成社
 なんとも懐かしい絵本です。私の娘たちと一緒に読んだ絵本。あれから何年経ったでしょ。(具体的な年の数をいったら、娘たちに叱られそうです)
 娘たちが大好きだったバーバパパ。ピンクの大きなおばけです。

 娘たちが小さい頃に「スライム」という奇妙なおもちゃがありました。ちょっとどろどろして、なんにでも形を変える、化学的な粘土のような遊び道具。きっと子供はそういう何にでも姿を変えられるものが楽しくてしようがないのにちがいありません。
 バーバパパもそうです。長いシリーズのはじまりとなるこの巻では、姿を変えることで火事からたくさんの人を助けたり、動物園から逃げ出したひょうをつかまえたり、バーバパパは大活躍します。子供たちがいつの時代であってもバーバパパを大好きなのは、そういう変わる力をもっているからかもしれません。
 子供だって同じです。あれになりたい、これもしてみたい。どんどん心は変化していきます。そのような子供の心に寄り添っているから、バーバパパの絵本は長く愛されてきたのです。

 それにバーバパパという名前の絶妙感。子供たちが主人公の名前を呼ぶたびに、お父さんの気持ちはくすぐられたのではないでしょうか。
 この絵本、今でも多くの子供たちに愛されています。
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自信を持っておすすめしたい おっぱいがいっぱい   投稿日:2015/03/01
おっぱい
おっぱい 作・絵: 宮西 達也
出版社: 鈴木出版
 「おっぱい」なんて、いつから口にしていないのだろう。
 吸っていたとか飲んでいたとかではなく、「おっぱい」という言葉をである。
 成長すれば、「乳房」とか「バスト」とかに変わってしまう。
 「おっぱい」の語源を調べると、いくつかの説があるらしい。
 その一つが、「おおうまい」という言葉から来たというもの。お母さんのお乳はそんなにうまかっただろうか。ちっとも覚えていない。
 別の説に、「お腹いっぱい」が変化してとある。確かに母親のお乳をごくごくを飲んでいた子どもたちを見ていると、お腹いっぱいになれば、泣くこともおさまる。
 いずれにしても、「おっぱい」を口に、言葉にですよ。できる年齢はほんのわずかだ。
 それは、とっても幸福な時間だ。

 みやにしたつやさんのこの絵本は、ズバリ『おっぱい』というタイトルがついている。
 成長して「おっぱい」と書けるのは、絵本作家の特典のようなものだ。
 お母さんのおっぱいに吸っている赤ちゃんの幸せそうな絵が、表紙だ。
 うらやましい。
 母乳で育てられたはずだが、こういうことは全然覚えていない。
 幸福な時間は記憶に残らない。残念だが。

 おっぱいを吸うのは、人間だけではない。
 象もねずみもゴリラもぶたもそうだ。
 みやにしさんはまず動物たちの授乳の姿を描いて、そのあとにドーンとお母さんのおっぱいを大写しで描く。
 りっぱなおっぱいだ。
 次のページにはそのおっぱいをじっと見つめる男の子。
 ここは女の子ではなく、やはり男の子がいい。
 女の子だっておっぱいを吸ったはずだが、ここは男の子。このあたりは微妙なのだけれど。
 男の子は、こんなことを思う。
 「おおきく、やさしく、つよく、げんきなこにしてくれた ぼくのだいすきなおっぱい」。
 これは男の子だから、言える。
 大人になってこんなことは言えない。
 これも、絵本作家の特典だ。

 男の子にはまだ小さい弟がいて、今は弟がお母さんのおっぱいにしがみついている。
 それを男の子は「かしてあげ」ていると思っている。
 でも、きっとそのおっぱいは永遠に男の子のところには戻ってこないのだ。
 「おっぱい」と口にしなくなるように。
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自信を持っておすすめしたい 女の子が苦手?!   投稿日:2015/02/22
としょかんねずみ3 サムとサラのせかいたんけん
としょかんねずみ3 サムとサラのせかいたんけん 作: ダニエル・カーク
訳: わたなべ てつた

出版社: 瑞雲舎
 本好きな人にはいつも机にかじりついて本ばかり読んでいる、不健康なイメージがどうもあるようです。
 かけっこをさせたらいつもビリ、鉄棒なんて大嫌い。野球をしても三振ばかりで、もう嫌だ。
 やっぱり本を読んでいる方がいい。
 実際にはそんなことはないと思うのですが、どうでしょう。
 ダニエル・カークの人気シリーズ「としょかんねずみ」の3冊めとなるこの絵本を読むと、やはり本好きな人(この絵本ではねずみですが)は、やはり運動が苦手なんだろうかと、苦笑が浮かびます。

 今までの作品で、図書館に住んでいるねずみのサムが素晴らしい文才を発揮して人間たちを驚かせてきましたが、この作品ではサムの怖がりの一面が描かれています。
 ある晩、いつものように誰もいない図書館でサムは大好きな冒険の本に夢中になっていました。気分はさしずめ冒険家。
 そこになんと図書館の大きな書棚のてっぺんから一匹のねずみが舞い降りてきました。
 まさか自分以外に図書館にねずみが住んでいるなんて。
 しかも、ピンクのスカートをはいた女の子ねずみです。
 名前はサラ。
 女の子といっても、サラはサムよりうんと活発です。自分のことを探検家というぐらいですから。

 サムとサラは友だちになりますが、どうも雲行きが怪しい。
 サラはいろいろなところを見て回ろうとします。
 でも、サムはすべては本に書かれていると反論します。
 そしてとうとうサラはサムにこういうのです。
 「サム、あなた、こわいんじゃないの?」。
 さすがに女の子にそこまでいわれて、サムもあとにはひけなくなります。
 図書館の高い書棚のてっぺんまで登ることになります。
 でも、その時のサムの顔ったら。なんとも情けない。
 気の弱い男の子に気の強い女の子が、「しっかりしなさいよ」と背中をどんと叩かれているような感じです。

 図書館の隅々までなんとかサラと一緒に探検をして疲れてベッドに戻ったサムはこうつぶやきます。
 「ほんを よんだり かいたりするのも、たんけんするのと おなじことさ」。
 本当にそうなのでしょうか。
 サムには誤解があるようです。
 本はたくさんのことを教えてくれますが、本当の世界はもっと、うんと広いのです。
 サラはそのことをサムに教えてくれているのです。
 これから二匹の仲はどうなっていくのでしょうか。
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自信を持っておすすめしたい かおるちゃんを救え!    投稿日:2015/02/15
トリゴラス
トリゴラス 作・絵: 長谷川 集平
出版社: 文研出版
 JR東日本の企画「ウルトラマンスタンプラリー」(平成27年1月13日〜2月27日)が好評らしい。
 JR東日本の首都圏の主要な駅に設置された歴代ウルトラシリーズの全64種類のスタンプを集めるという企画で、スタンプ10個でウルトラめんこがもらえるという。
 スタンプを押すパンフレットには怪獣たちの特長も載っていて、これを持つだけで往年の怪獣博士の気分になれる。
 おそらく子ども向けの企画なんだろうが、大人たちが夢中になっているそうだ。
 なにしろ、「ウルトラQ」がTV放映されたのが1966年、昭和41年だから、この番組をリアルで見ていた世代ももう60歳を越えているはずだ。
 昭和30年生まれの私の、小学生の同級生で怪獣のことが滅法詳しかった男子がいたが、もしかしたらこの企画に歓喜しているのではないだろうか。

 この絵本はタイトルでわかるように、怪獣を描いた作品だ。
 作者の長谷川集平さんは昭和30年生まれだから、「ウルトラQ」世代といっていい。
 ある夜、少年は空で「びゅわん びゅわん」の音に目を覚ます。
 それはきっと怪獣にちがいない、と隣で寝ている父親に訊ねる。
 怪獣の名前は「トリゴラス」。大きな鳥の怪獣だ。
 ラドンのように大きな羽根で空を飛び、地上に降り立てばゴジラのように大暴れ。
 少年の頭の中では、街はもう「めちゃくちゃ」で「ぐちゃぐちゃ」になっている。
 しかも、こともあろうにかおるちゃん(少年は密かに彼女のことを想っているようだ)のマンションからキングコングのように彼女を連れ去ってしまう。

 父親は「あほか」と、そんな少年を一蹴する。
 「あの音は、ただの風の音じゃ」。
 少年のなんともいえない横顔が切ない。
 評論家の草森伸一は「少年の永遠の姿を捉えた絵本」と評したそうだが、怪獣に夢中になったかつての少年たちは、怪獣に連れ去られてそれぞれのかおるちゃんを助けようとしていたのだろうか。
 そして、あれから半世紀近く経って、まだかおるちゃんを救出できなくて、JRの緑色や赤い電車に乗ってスタンプを集めているとすれば、「あほか」ですまされない少年の純情である。
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自信を持っておすすめしたい いい手をもて   投稿日:2015/02/09
ルリユールおじさん
ルリユールおじさん 作: いせひでこ
出版社: 講談社
 この春、60歳の定年を迎えます。
 かつて「男の顔は履歴書」と言ったのは大宅壮一さんだったでしょうか、時に鏡の中の自分の顔をつれづれにのぞきこみながら、果たして私の顔はどんな履歴書にできあがっているのかと思ったりします。
 なんとものほほんとした顔からはどんな履歴も浮かんでこないのですが、それでもなんとかこの顔で定年の時を迎えるのだなと嘆息したりしています。

 絵本作家いせひでこさんの代表作ともいえるこの作品の中に手の表情だけを描いたページがあります。
 主人公の女の子ソフィーがこわれた植物図鑑を直すために一人のおじさんを訪ねます。
 おじさんは本の製本職人です。「ルリユール」というのはその職業の名称です。
 小さなソフィーはそんな難しい名前は知りません。自分の大好きな本が元通りになるのだったら、それでいいのです。
 おじさんはソフィーの願いに聞いてくれます。
 本を修復しながら、ソフィーとおじさんの会話がぽつんぽつんとはさまります。
 ソフィーが見つけた一枚の男の絵、それはおじさんのお父さんの絵でした。
 その夜、おじさんは一人になって、自分と同じようにルリユールであった父のことを思い出します。
 ソフィーとの会話がおじさんに父のことを思い出させてくれたのです。
 その場面に、手のページがあります。

 「あの木のようにおおきくなれ」と父がといつも言っていたことを思い出します。
 そして、「父の手も木のこぶのようだった」と。
 このページに描かれている手は働いてきた男の手です。
 ルリエールという仕事に誇りを持ち、細心の注意をはらいながら優しく丁寧に本を製本していく手。
 父がかつてこういったことをおじさんは思い出しました。
 「名をのこさなくていい。いい手をもて」。

 「いい手」とは命を生み、育み、また新しい命につなげていく、大きな木のようなものかもしれません。
 いせひでこさんはこのたった1ページの手のページにどれだけの熱情を注いだことでしょう。
 手のページを開きながら、じっと私の手を見て、ルリユールおじさんのようにつぶやいてみます。
 「わたしも魔法の手をもてただろうか。」
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自信を持っておすすめしたい 喧嘩するほど仲がいい   投稿日:2015/01/25
れおくんのへんなかお
れおくんのへんなかお 作: 長谷川 集平
出版社: 理論社
 小学生の頃に大変仲の悪い女の子がいました。
 何かあれば言い合いをしていて、それがどんな内容であったかは全く記憶にないのですが、担任の先生に言われた一言だけはよく覚えています。
 「男と女は喧嘩するほど仲がいいものだ」。
 そのあとその女の子と仲良くなった記憶もないのですが、なんだかその言葉があたっていないともいえなかったような気恥しい思いだけが残っています。
 仲がいいというには、ついちょっかいを出してしまいがちのような気がします。

 長谷川集平さんのこの絵本は、そんな小学生の姿を描いています。
 学校の帰り道、ぼくを待っていたれおくんは「シェー」のポーズ、これは昭和30年代に生まれた子どもならみんなしたと思いますが赤塚不二夫さんの漫画「おそ松くん」に登場するイヤミの決めポーズです、をしたり、顔面七変化をしたりで、ぼくを笑わせます。
 でも、ほかの友だちに聞いても、れおくんにへんなところはありません。
 どうして、ぼくにだけ、れいくんはへんな顔をするのでしょう。

 ある日、ぼくのお母さんがしている太極拳の見た帰り、勇気をだしてぼくはれおくんに訊いてみました。
 「なんでぼくにだけへんなかおするの?」
 れおくんは答えます。
 「ともだちにしかみせられないかおがあるんだよ」って。
 この場面を描く長谷川さんの絵が素敵です。
 この時二人は見晴台の上に立っているのですが、風が吹いていて、二人の髪はなびいています。
 まっすぐ遠くを見つめるれおくんの目は大きく開かれ、澄んでいます。
 れおくんを見つめるぼくの顔も真剣です。
 風、それはこれから二人が向かうであろう人生という風かもしれません、を絵本が見事に伝えてくれます。

 「ともだちにしかみせられないかお」。
 それは愛する人にしか見せられない顔のことです。
 いつもまじめに上品ぶっているのは疲れます。
 本当の私、本当の私の顔を見せた時、人はどれだけ安らげることか。
 長谷川さんのパステル基調のこの絵本に、そんなことを教えられました。
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自信を持っておすすめしたい 絵本作家の風土   投稿日:2015/01/18
はなすもんかー!
はなすもんかー! 作・絵: 宮西 達也
出版社: 鈴木出版
 宮西達也さんといえば、『おとうさんはウルトラマン』や『おれはティラノサウルスだ』といった作品で人気の高い絵本作家です。
 絵本作家には文章のうまい人、絵の上手な人、きれいな絵を描く人、力のこもった絵の人などさまざまなタイプがありますが、宮西さんの場合は少しコミカルな絵といえるでしょう。
 だじゃれ上手な長谷川義史さんのような人もいますが、宮西さんの場合、そのコミカルさは少しちがいます。
 長谷川義史さんが大阪の出身で宮西さんは静岡の出身。
 絵本作家にも風土ってあるような気がします。

 この作品に登場するかえるくんたちの姿も、どこか飄々としています。
 まず最初に登場するのが、つちがえるくんとあまがえるくん。二匹はよく似ていますが、肌の色がちがいます。つちがえるくんが茶色であまがえるくんが緑。
 しごく簡単。そういうあっさりとしたところが宮西さんの絵にはあります。
 二匹の間にはきれいな一本の紐のようなもの。
 「なんだろう、これ・・・?」と、二匹は紐のようなものの端っこを持って、引っ張り合いを始めます。

 そこに少し身体の大きいあかがえるくんが登場。
 もちろん、色はうすく赤っぽい。
 あまがえるくんの方についたものですから、つちがえるくんはずるずると引っ張られていきます。
 ここにこの絵本のタイトル、「はなすもんかー!」がでてきます。
 その声に現れたのがとのさまがえるくん。
 身体がひとまわり大きく描かれています。
 つちがえるくんに味方したので、形勢逆転。
 あとは、ひきがえるくん、うしがえるくんと、次々に出てきて、ひっぱりっこが続きます。

 六匹のかえるくんたちは、形や色こそちがえ、ほとんど同じように見えてしまいます。
 きっと長谷川義史さんならうんとちがった表情をこしらえたでしょうが、宮西さんはそんなことはしません。
 スマートなんですね、きっと。
 でも、東京人ほど澄ましてはいない。
 そういう中間点のところにいる感じです。

 かえるくんたちが一生懸命にひっぱっていたものって、何だったのでしょう。
 それは、絵本を読んで、確かめて下さい。
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自信を持っておすすめしたい 何かを見つけるって素晴らしい   投稿日:2015/01/12
としょかんねずみ2 ひみつのともだち
としょかんねずみ2 ひみつのともだち 作: ダニエル・カーク
訳: わたなべ てつた

出版社: 瑞雲舎
 アメリカの絵本作家ダニエル・カークによる「としょかんねずみ」の第2作めです。
 一作めを読んでいない人のために、ざっとおさらいをしておきます。
 主人公のサムは図書館に住むねずみです。図書館に住んでいるくらいですから。本を読むのが大好き。
 とうとう自分でも本を書くようになります。
 サムの書いた本は子どもたちにも大人気になりますが、誰も著者のサムがどんな人なのか知りません。
 そんなお話。

 2作めのこの絵本では、サムの正体がいよいよばれてしまうのです。
 サムがねずみだとばれたら、図書館は大騒ぎになってしまいます。サムだってきっと追い出されます。
 絵本や物語、漫画の世界ではねずみは愛される動物ですが、実際の世界ではみんなに嫌われます。
 さあ、どうなるのでしょう。
 でも、その前に、一人の男の子を紹介しましょう。
 トムです。
 トムはおとなしい男の子です。
 友だちと一緒に絵本をつくるという集まりに参加したのですが、仲間が見つけられません。
 そんな子どもなら、皆さんの近くにもきっといると思います。
 仲間はずれにしているってことないですか。
 もしかしたら、この絵本のトムのように本当はすごい素質を持っているかもしれないのですから、一緒に遊んであげるときっといいことがありますよ。

 トムは、なにしろ、子どもたちに人気のあるサムという作家の正体はねずみだということに気がついたのですから。
 面白いことに、この時のトムの表情が最初と随分ちがうのです。
 目なんか輝いています。
 図書館の机の上についたねずみの足跡に気づいたトムといったら、すっかり元気のいい男の子の表情です。
 何か素晴らしいことを見つけるというのは、おとなしい子どもであっても、表情すら変えてしまう力を持っているのかもしれません。
 そして、ついにトムはサムの正体をつきとめます。
 「としょかんねずみ」を見つけてしまうのです。

 さあ、「としょかんねずみ」のサムはどうしたでしょう。
 サムの正体を知ったトムはどんな行動をとったでしょう。
 この絵本のタイトルが「ひみつのともだち」となっています。
 本当の友だちってどんな関係なのか、この絵本でわかるかもしれません。
 こんな絵本があることを秘密にすることはありませんよ。
参考になりました。 1人

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