
『ねないこだれだ』『いやだいやだ』(共に福音館書店)『おばけのてんぷら』(ポプラ社)など、時代を超えて愛される作品を次々と生み出しつづけている、切り絵作家のせなけいこさん。本書は、せなけいこさんが、絵本作家としてデビューする前、アンデルセンの物語に合わせて作った幻の原画に、石井睦美さんが現代の子どもたちのために文章を書き下ろした美しい絵本です。
森の中に、1本の小さなもみの木が立っていました。 もみの木は、自分が小さいのがいやでたまりません。 早く大きくなりたいなあという気持ちでいっぱいです。 温かいお日さまの光と、気持ちのいい風も、きらきらした雪も、自分をぴょんと飛び越えるうさぎも、もみの木は少しもうれしいとは感じません。
まわりに立っていた大きなもみの木は、次々と切り倒され、どこかに運ばれていきます。 鳥たちから、切られた木が船のりっぱなマストになったことや、部屋の中で金のリンゴやおもちゃやろうそくで飾り付けられていることを聞いた小さなもみの木は、早く自分もそうなれないかなぁ……という気持ちをおさえきれませんでした。
やがてすくすく育ったもみの木は、冬が来てクリスマスが近くなったある日、ついに切り倒されます。そしてある屋敷に運び込まれて、美しく飾りつけをされるのですが――。
小さなもみの木のもつ気持ちは、大なり小なり、誰しもがもっていそうです。「ここではないどこかへ行ってみたい」「もっとこうなりたい」。でも、その思いが強すぎるあまり、自分のいる幸せな環境や、周囲のやさしさに気づけなかったとしたら――。
「ずんずんのびて、そだっているときこそ、たのしいんだよ」「このひろいもりのなかで、わたしたちといる このときを、たのしみなさい」森の中でお日さまや風が話しかけてくれた言葉の大切さとその意味が、じわじわとしみこんできます。
温もりのある切り絵で表現される、もみの木や自然、そして動物や子どもたち。優しい語り口と美しい絵本だからこそ、心に深く響き、余韻を残します。親子で大切に読みたい一冊です。
(絵本ナビ編集部)
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大きくなりたい、別の世界へ行きたいと夢みてばかりいる一本のもみの木。 ある日、森から切り出され、お屋敷の中で美しくかざりつけられますが――。
本当の幸せとは何か。 一本のもみの木に人生をなぞらえ、アンデルセンが描く、心にのこる物語。
せなけいこ絵本作家デビュー前夜の幻の原画を復刻し、石井睦美により現代の子どもたちに向けて書き下ろされました。
今、この瞬間の幸せを大切に。 大人にも響く、大事なメッセージが込められた絵本です。 ――関根麻里(タレント、二児の母)

今、この瞬間の幸せを大切に。 大人にも響く、大事なメッセージが込められた絵本です。 ――関根麻里(タレント、(もうすぐ)二児の母)

お話だけを読むと、何とも物悲しいクリスマス物語です。
これを人生と重ね合わせるといたたまれなくもなってきます。
そんな物語をせなけいこさんの絵でくるまれると、幸せって何だろうと話の内容が浄化されてきた感じがしてきました。
森で大きくなって伐り倒されて行くもみの木は、船のマストになって世界を巡るといいます。
これが幸せでしょうか。
クリスマスツリーとしてクリスマスを演出したもみの木は幸せでしょうか。
クリスマスを終えた後、もみの木は切られて燃やされてしまうのです。
これが幸せでしょうか。
きっともみの木は森で育ち続けているのが一番幸せなことには違いありません。
せなけいこさんは、物語の非情さを受けとめながら、せなさん自身の世界でマイルドに描いています。
今、大人としてこの物語を読む時、マストになったもみの木も、クリスマスツリーになった木も、本人が納得さえしていれば、幸せなのではないかと思いあたるのです。
自分たち人間はいつか人生の終わりを迎えます。
その人生で、何か自分の幸せだった時を抱きしめながら死んでいきたいと思います。
何事もなかった人生は虚しすぎます。
せなさんはもみの木の輝いていた時も、大切に描いています。 (ヒラP21さん 70代以上・その他の方 )
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