すごく楽しみに待っているのに友だちのタニくんが来ない。約束したのに!
「もう、もうもう、もうもうもう、ぼくは、おこった!」
楽しみな気持ちががっかりに変わり、がっかりが怒りに変わって、どうにも止まらなくなってしまった小学2年生の男の子ハルくん。まっすぐ家に帰りたくなくて、いつもと違う道をどっしん! どっしん! どすどすどす! とめいっぱい足を踏みならしながら歩いていきます。すると目の前に赤くて丸い形をしたふしぎな車が現れました。車に書かれていたのは、「ベーカリーあんぐり」「あなたのプンスカ、ジャムにします」という文字。
「プンスカってなんだろう。」
考えていると、ハルくんの前に「あぐりさん」と名乗るおばあさんが顔を出しました。誘われて車の中に入ると、そこにはたくさんの美味しそうなパンがずらり。ハルくんは、メロンパンとお茶をごちそうになりながら、あぐりさんにいろいろな話をします。そうしているうちに「そのプンスカをジャムにしないかい?」と提案されて‥‥‥。それってどういうこと?
ぷんぷんしているハルくんにおいしいパンとお茶を出し、じっくり話を聞いて、ただただ受け止めてくれる自称「まほうつかい」ことあぐりさん。ぐちゃぐちゃになった気持ちをまるごと受け止めてくれるそのやりとりは温かく、ほっとする子どもたちもたくさんいるのではないでしょうか。
中心となって描かれるのは、自分ひとりではなかなか鎮めるのが難しい「怒り」という感情との向き合い方。子どもだって大人だって、誰でもわっーと怒りで気持ちがたかぶってどうにも収まらない! なんてことありますよね。その「怒り」への向き合い方を、こんなに楽しいお話で分かりやすく伝えてくれるなんてすごい! いったいどんな方が書かれたお話なのかしら? と思ったら、くどうれいんさんの初の童話なのだそう。童話は1作目ということなのですが、くどうれいんさんは、文学の世界では、小説やエッセイ、俳句、短歌と幅広くご活躍の、今注目を浴びている作家さんです。
かんかんに怒っているハルくんの怒りの表現(「耳があつくて、のどがきゅっとしまるかんじがして、うでをぶんぶんふりまわしたい気持ち」「なんだってやってしまいたい気持ち」など)には、頭にきた時の気持ちってまさにこんな感じ、とうなずいてしまいますし、たっぷり登場する「しゅるしゅるしゅる」「もわもわぷくーっ」「ひゅるん」などの擬音もとても心地良く、ことば選びがとても魅力的に感じられて、今後の作品への期待が高まります。
挿絵は、絵本『とおくにいるからだよ』『ゲナポッポ』などでおなじみのくりはらたかしさん。表情豊かで親しみやすい登場人物や、楽しさいっぱいの「ベーカリーあんぐり」の様子は、お話を一層ワクワクさせてくれます。こんな楽しそうな車のパンやさんがあったら、出会ってみたいですよね。
さあ、もし「プンスカ」したら、おなべをじーっとみて、ゆっくり「プンスカジャム」をかきまぜてみませんか。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
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