「そろそろ ごはんよ」
庭で遊んでいたりょうくん、いやいや食卓につきます。まだまだ遊んでいたいのに。今日のご飯はしらすどん。あっという間に食べて、ごちそうさま。ところが席を立つりょうくんに、どこかから呼び止める声がします。
「まだ あるよ」
声の主はどんぶり。見ると、どんぶりの中には食べ残された小さなしらすが一匹。どんぶりは続けて言うのです。
「自分がしらすだったらって、かんがえたことある?」
その瞬間、りょうくんはみるみる小さくなって、どんぶりに吸い込まれ……!?
どこにでもある日常の光景が、この場面をもって急展開。しらすの代わりにどんぶりに残された小さなりょうくんは、生ごみとして捨てられて、そこから信じられない光景を次々に目の当たりにするのです。
なんという絵本でしょう。その驚きの展開に圧倒されながら、特筆すべきはその描写。見たことも体験したこともないはずのしらすの生涯なのに、読み終わってみれば、いつの間にかりょうくんと同じような感覚を味わってしまうのです。この作品が絵本デビュー作となる最勝寺朋子さんは、実際にシラス漁を体験されたり海にもぐったり、絵本のための取材を丁寧に重ねていったのだそう。
怖い? いや、美しい? それとも……。感覚的に「命を感じる」ことができる、存在感の大きな絵本の登場です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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