宮澤賢治の物語は数多くの絵本になっていて、子どもたちにも馴染みのあるお話がいくつもあります。でも、その1冊1冊を見ると、その表現の幅の広さに驚かされることがよくあります。それだけ読者の頭の中で様々なイメージに置き換えられながら読まれているということなのでしょうか。
「画本 宮澤賢治」は、画家小林敏也さんが装丁から造本まで含め、賢治の物語を表現するためにこだわりぬいた絵本シリーズです。幻想的であり強く心に引っかかる場面がいくつも存在する賢治の世界を、様々な技法を用いて見事に視覚化しているそのシリーズ。この度、好学社より待望の復刊となりました。
「注文の多い料理店」は、そのスリリングな展開、鮮烈な内容に記憶に残っている方が多いでしょう。
冒頭では、山奥で狩りを楽しむ二人の若い紳士のシュールな会話。そして、突然現れる西洋造りの立派なレストラン。テンポ良く進んでいくストーリーとは裏腹に、少しずつ頭の中に浮かんでくる違和感や不安感が、押さえられた色彩と大胆な構図で象徴的に描かれた絵により伝わってきます。
そして、そこからは扉の画面が連続する不思議な場面へと進んでいきます。扉にはそれぞれ装飾が施され、美しい色合いで目を楽しませてくれます。扉に書かれたコメントもどことなくユーモラス。でも、そこには扉しか存在していないので、相変わらず不安感は続いていきます。いよいよクライマックスへと続く画面では…!?
繊細かつ迫力のあるこれらの絵は、「スクラッチ技法」を用いた版画なのだそう。
巻末には、かなり洒落の効いたおまけのページまで付いています。
作品として収集したくなるほど質の高いこのシリーズ。
賢治の物語の面白さはもちろん、小林さんの描き出す独特で不思議な感覚も合わせて体験してもらいたい1冊です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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