「こころにうかんだことを かいてみましょう」と言うと、ひとりだけ画用紙を真っ黒に塗りつぶしている男の子がいる。先生がびっくりして、「ちゃんとした えを かきなさい」と言うけれど、男の子はやめません。
学校が終わっても、家に帰っても、朝になっても、休みになっても。男の子は、画用紙を真っ黒に塗りつづけ、部屋にはどんどん黒い紙が増えていく。大人はみんな心配顔。だけど、ある時不思議なことが起こります。男の子が塗るのをやめた時、そこにうまれたものは……?
一体何が起きているのだろう。集中している男の子の姿を見ながら、とまどってしまうのは、読者も一緒。けれど、画面を埋めていく黒い色を見ていると、不思議とどこかやわらかく。怖いという気持ちは生まれません。きっと、彼のまわりの人たちも同じだったのでしょう。そうやって見守っていった先で、男の子の見ていた世界を、ようやく知ることができるのです。
世界中から賞賛され、「子どもから、想像力を奪わないでください」というメッセージがインパクトを残した、衝撃のCMから20年。その内容が、CM制作者の高崎卓馬さんの文章と、黒井健さんの絵によって、新しく絵本となって誕生しました。「想像力の可能性」というテーマは変わらずに、でもその結末は、子どもたちの心をワクワクさせてくれるものです。魅力的に描かれた男の子と、男の子が生みだす世界。今度は絵本の中で味わうことができるのは、とても嬉しいことですよね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
続きを読む