この町には、よねこさんという、おばあちゃんの姿をしたゆうれいがいる。
あちこちの家にあらわれては、
「明日の米、といだか?」
といってお米をといでいくという。
そして、とうとうぼくの家にもよねこさんが!
シャッ、シャッ、シャッ
シャッ、シャッ、シャッ
てぎわよくお米をとぐよねこさんと、山盛りに炊きあがるごはん!
はじめは怖かったけど、毎晩お米をとぎにきてくれるよねこさんのことが、ぼくはなんだかにくめない。
でも、いつもお釜いっぱいにお米をといでくれるものだから……うっぷ、もうお米でおなかいっぱい!
「第33回 日産 童話と絵本のグランプリ」、童話部門大賞受賞作。
毎晩お米をとぐためだけに、お墓から化けて出るゆうれいのよねこさんが、とってもチャーミングな一冊です。
よねこさんってば、ゆうれいだからか、どこかぼーっとしていて眠そうだし、顔色も悪いし、はじめはあまりかわいげなくも見えるのですが――
口をきゅっと結んでいっしょうけんめい米をといだり、神社の神主さんを前に汗だくで目を回したり、思いがけずにぎやかな表情を見せてくれるよねこさんに、いつしか夢中!
日本の食文化とは切っても切れない「米とぎ」。
冷たい水は手にいたいけれど、リズミカルな乾いた音がおもしろく、感触も独特で、なんだか気持ち良いですよね。
やり方を工夫すればかなり小さな子でも楽しみながらできる家事のひとつでもあるので、よねこさんを読んで、お米というもっとも親しみ深い食に触れ合うきっかけとしてみるのはいかがでしょう。
それにしても、どうしてよねこさんは、毎晩お米をとぎに出てくるのでしょうか?
その秘密が明かされたとき——
頬を染めてはにかむよねこさんのことが、もっと愛おしく思えているはず。
(堀井拓馬 小説家)
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