レオ・レオニといえば、教科書にも載っている『
スイミー』や『
フレデリック』をはじめ、『
あおくんときいろちゃん』『
コーネリアス』など、誰もが1度は読んだことがあるほど、世界的に有名な絵本作家のひとり。今回、展覧会PRとして、レオ・レオニ作品を愛してやまないと公言する、絵本ナビ代表・カナガキ事務局長と、Bunkamura ザ・ミュージアムのキュレーター廣川暁生さんにレオ・レオニの魅力をたっぷり語っていただきました!
●「レオ・レオニ作品との出会いは娘が生まれたから」
───カナガキさんとレオ・レオニ作品との出会いは、いつですか?
12年前です。それまでの僕は絵本との接点が全くない、普通のビジネスマンでした。レオ・レオニ作品も教科書に載っていた『スイミー』を読んだ記憶があるくらい。それが、娘が生まれてはじめてエリック・カールの『はらぺこあおむし』を読んでビックリ! あまりにも面白くて、もっと他にも面白い絵本があるはずだと、絵本を読むようになりました。それがこの絵本ナビの原点なんです。レオ・レオニ作品と出会ったのはちょうどその頃。最初はレオ・レオニのDVDでした。その映像がすごく綺麗で、おはなしも面白くて、次の日には本屋さんへ行って、DVDに入っていたレオ・レオニの絵本を全部買いました。
───どんなところに心を奪われたのでしょうか?
まずは色の鮮やかさと、配色のバランス、登場人物たちもすごい可愛いし、おはなしもさらっと読めました。でも、娘と一緒に何度も読んでいくうちに、次第に「この作品は思った以上に奥が深いぞ…」と感じるようになりました。
――廣川さんはレオ・レオニ作品との出会いはいつですか?
廣川:私も小学生のころ、教科書に載っていた『スイミー』が出会いだったと思います。今回、展覧会のために作品はもちろん、レオ・レオニの生涯にも触れることとなり、絵本作家以外の顔も多く持っていることに驚きました。
───レオ・レオニというと、絵本作家以外にもイラストレーターやグラフィックデザイナーとしても活躍していたんですよね。
廣川:そうなんです。絵本作家としてのデビューは遅く、49歳のときにお孫さんの為に作った絵本が『あおくんときいろちゃん』だったんです。
───そうなんですか! 49歳のデビューから亡くなるまでに40作近い作品を生み出されたんですね。カナガキさんはその作品をほとんど読まれてきたんですよね。
もちろんです!
───それでは、カナガキさんの心に残ったレオ・レオニ作品をご紹介していただきましょう。
- フレデリック
- 作:レオ・レオニ
訳:谷川 俊太郎 - 出版社:好学社
ちょっと かわった のねずみの はなし。
仲間の野ねずみが、冬に備えて食料を貯えている夏の午後、フレデリックだけは何もせず、ぼんやり過ごしておりました。寒い冬がきて、フレデリックは・・・
───言わずと知れた、レオ・レオニの代表作のひとつですね。
これは娘が2歳くらいのときの一番のお気に入り絵本でした。僕にとっては子どもの頃抱えてきたモヤモヤとした感情の答えをもらえた絵本です。
───…といいますと?
子どもの頃、学校では協調性を持って周りと合わせなければならないと教えられますよね。でも、僕は人と違う感じ方や考え方もいいんじゃないか、素敵じゃないかと思っていて、葛藤がありました。イソップ寓話の『アリとキリギリス』の様に、コツコツと文句を言わずに働くか、派手に遊んで暮らすかの2択しかないおはなしなどにも、他の考えはダメなの?!と不満を感じていたんです。
『フレデリック』のおはなしでは、彼のように変わったネズミが、仲間の役に立って認められ、尊敬されるんですよね。人と違う個性って素晴らしいことで、みんなの役に立つようにすればいいんだって、ずっと感じていたモヤモヤにひとつの答えをもらったように感じました。思春期の多感な頃に『フレデリック』に出会っていれば、どんなに楽だったろうと思いますね。
───絵本ナビのレビューを読んでみると、「フレデリックに共感する」という方もいれば、「やっぱり協調性を持たないと…」という方もいて。意外に感想の内容がそれぞれ読む方によって違っていますよね。
それは、自分がフレデリックだと感じる人と、他のネズミだと感じる人で受け入れ方が違うんだと思うんですよ。自分が他のネズミだと感じる人は、子どもにはフレデリックの様になってほしくないと感じると思います。「みんながやっているんだから、やることはちゃんとやろうよ」って。そこはもちろんもっともなんですが、そこからもう一歩グッと踏み出して物語を読んでいくとまた違った見方が出てくるんです。
『フレデリック』に限らず、作品のメッセージ性が強ければ強いほど好き嫌いが分かれて当然だと思うんです。それは絵本に限らず、音楽でも映画でも、ものすごく深く考えさせられる作品ほど好き嫌いが分かれる、というのがその作品のあるべき姿だと思います。
展覧会で販売予定の素敵な数々。───レオ・レオニ作品は特に子どもだけでなく幅広い年齢層が楽しめる作品ですよね。
廣川:そうですね。特に『フレデリック』は女性の方のファンが多いので、展覧会のPRツールのデザインに使用したり、大人女子向けのかわいいデザインのグッズも展覧会に向けていろいろ用意しています。
――このしおりのフレデリックが、ピョコンと起き上がるようになっていて、とても可愛いんです!いろんなところからフレデリックをのぞかせてみたくなりますね(笑)。
胸ポケットにさりげなく挿して宣伝中。
- じぶんだけの いろ
- 作:レオ・レオニ
訳:谷川 俊太郎 - 出版社:好学社
いろいろ さがした カメレオンの はなし。可哀相なカメレオンは一つの悩みを持っていました。どうして他の動物のように、自分の色がないのだろうか? 行く先々、周りの環境で色が変わってしまう・・・
これはレオ・レオニ作品の中でも特に好きな1冊。圧倒的な美しさと、単純化されていながら、すごく親しみを持てる描き方で絵が表現されているんです。
───『じぶんだけのいろ』に対する、カナガキさんご自身のエピソードは何かありますか?
これも、子どもの頃に遡るのですが…小学校の頃、我が家は5年続けて引越しをするくらい、親の転勤の多い家でした。新しい土地に行くたびに、自分の居場所がどこにあるのか、自分が何者なのか、という悩みを持つようになりました。その思いは結婚して子どもができても変わらず、住んでいる場所もいずれ引っ越すだろうという意識が今もあるんです。でも、どこに引っ越したとしても、家族でいっしょにいれば変わらないよねというのが我が家の考え。『じぶんだけの いろ』の「きみと ぼくは いつも おんなじ」という一文には、それとすごく同じものを感じますね。
───レオ・レオニ自身も、オランダからイタリア、アメリカ、そしてイタリアと移動を余儀なくされた一生を送っていますよね。レオニ自身も自分だけの色を探し求めていたのかもしれませんね。
でもそれは、多かれ少なかれ誰もが心の中に持っている思いだと思うんです。「自分だけの色って何だろう…」って。
あと、僕は後輩が結婚するときに、この絵本をプレゼントしましたね。
───そうなんですか?なんだか意外なセレクトです。
結婚式の定番絵本といえば『しろいうさぎとくろいうさぎ』なんですが、あれは恋の話なんですよね。いずれ恋は冷めるんだよね〜って(笑)。
――先輩からのリアルなメッセージですね(笑)。
『じぶんだけのいろ』は冷めても大丈夫! 同じ色に変わることに価値があるんですから!って。