東京都中央区築地に1935年から日本の水産物の窓口として存在してきた「東京都中央卸市場」、通称「築地市場」。長きに渡り日本人に愛されてきたこの魚市場が2016年11月にその役目を終え、江東区豊洲の新市場へ移転することとなりました。
本作は、まさに築地市場の日常を切り取り、絵本の中に写し込んだ、実録レポートともいえる作品です。
作者のモリナガヨウさんが、築地市場に魚が運び込まれる午後11時から市場が閉まる午後1時までの市場を訪れ、せりや仲卸などの様子、そこで働く人々の姿を観察した絵を、1枚1枚とても丁寧に描き上げています。
この作品を読むと、海で釣られた魚がどのようにして船に乗せられ、漁港にたどりつくのか。1日どれだけの魚が市場に集められ、どのような形でせりが行われるのか。「仲卸売場」がどんな場所で、どのような人たちが買い付けに来るのかなど、大人も知らない築地市場の裏側まで知ることができます。
学習絵本としての価値が高いことはもちろんですが、それだけでなく、モリナガさんと一緒に築地を訪れている「タコ」と「イカ」のとぼけたキャラクターにクスっと笑ってみたり、カバーで探し絵遊びをしてみたり。遊び要素もそこここに隠されています。
何より、今後失われてしまう場所にかつてあった活気を一冊に残す……、絵本にこんな力(機能、役割)もあったのかと、驚かされます。築地市場を知っている大人たちが懐かしむためにも、これからの子たちが、かつて築地に存在した一大魚市場を知るきっかけとなるためにも、後世に伝えるべき作品となることでしょう。
『ジェット機と空港・管制塔』(あかね書房)、『図解絵本東京スカイツリー』(ポプラ社)など、実在の建築物をリアルに描き続けてきたイラストレーター、モリナガ・ヨウさんだからこそ描ける一冊です。
(木村春子 絵本ナビ編集部)
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