19世紀生まれのイギリスの詩人、ウォルター・デ・ラ・メアの名を聞いたことがありますか?
本書は、幻想文学・怪奇小説の名手、優れた児童文学作家・詩人でもあるウォルター・デ・ラ・メアの詩に、カロリーナ・ラベイが現代的な版画絵をつけて美しい絵本にしたものです。
空が夕ぐれの黄色に染まる頃、一家は外でお茶をのんでいます。
「うすちゃのねこが 農家のパパのいすのそば
ひざにすりより みゃあお、とおねだり。
じいさんいぬは こけのはえた犬小屋で
ほねをもごもごかじっては、とおるねずみに わぉーんわぉーん」
子どもたちはお茶のテーブルを離れ、ねこや犬を追って家畜小屋へ。そして牧場へ。
広々とした牧場は、しっとりとした草がなびき、牛がねそべっています。
動物たちはみな、それぞれにえさをもらい、大きな夕日が落ちてくる頃、小屋へもどって眠りにつきます。
それは昔から繰り返されてきた、牧場のなんでもない夏の夕ぐれ。
かつて1913年に本国イギリスで出版された詩集『ピーコック・パイ』所収の、Summer Evening(夏の夕ぐれ)という詩です。
ママとパパが、農家の一日を終える作業をおだやかにすすめていきます。
お茶とケーキでひと息いれたあと、夕ぐれせまる風景のなかのひと仕事。
動物たちがすこやかに眠りにつけるように、世話をしていくのです。
干し草の黄色や、夕日の赤、茜色の空。ぬくもりのある色彩がきれいです。
期待の新人画家カロリーナ・ラベイの絵からは、人も動物もみな、おなかが満たされ、平和な一日が暮れていく様が伝わってきます。
本書は『ハロウィーンの星めぐり「夜に飛ぶものたち」』『ホワイトクリスマス』につづくW・デ・ラ・メアとラベイの共作絵本、3冊目。
文字は少なめにおさえられ、絵の中に入り込みながら、詩をじっくり味わえます。
なんともいえない郷愁がただよう空気を、感じられるのではないでしょうか。
“幼な心の詩人”と称される、W・デ・ラ・メアの世界を体験してくださいね。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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