表紙のさえない猫背の中年男性とペンギンの出会いのシーンが印象的。
ペンギンが出会ったのは夢見る少年ではなく、
夢をあきらめているような中年男性なのです。
飛べないことぐらい知っているけれど、きっと飛べると信じ、
飛んでみたものの不安になったとたん、あえなく墜落したペンギン。
散歩の途中に出くわした男性は、ペンギンをみかねて一緒に暮らし始めます。
空の飛びかたの研究と試行錯誤の日々には、クスクス笑いが止まりません。
「航空力学」「耐久能力」など難しい単語を使って淡々と語られる文章と、
ちょっとずれた取り組みが分かる絵のギャップがたまらなくおかしい。
ドラム洗濯機はだめでしょう!
専門書の選択、間違ってるでしょう!
また、絵からは男性とペンギンの友情が深まっていく様子が伝わってきて、暖かな気持ちになります。
体操の絵の楽しげなこと。
突飛な設定なのに、妙な現実味を感じさせてくれるのは、
鉛筆画に少し色を挿しただけながら、写実的なデッサンの力でしょうか。
ラストに訪れる、男性とペンギンの別れのシーンがとても素敵。
広い広い空を見上げる男性の背中は
一抹の寂しさを漂わせつつ、なんだか誇らしげ。
素っ気ないようなペンギンへの最後の賛辞もいいのです。
男性も何か、自分の世界で、自分なりにもういちどやってみよう、という心境になったのではないでしょうか。
希望の物語だと、私は思うのです。
残念ながら、子ども達には、絵が地味で、言葉も硬く、パロディーも知識がない為、少々難しかったようでした。
いくつかの夢と挫折を経験した大人の方にこそおすすめの絵本です。