表紙をめくると、暗く緑萌える山がそびえ、その頂に建つお城の赤い尖塔が、たゆたうような灰色の空に映えている風景が立ちあらわれます。
そのお城で、ひとりの女の子が生まれました。
血のように、赤いくちびる。
カラスのように、黒い髪。
雪のように、白い肌。
あまりにも美しく生まれついた彼女は、こう名付けられました。
「白雪姫」と。
ボローニャ国際絵本原画展で四度の入選を果たした、作家たかのももが描く、あやしくも美しい白雪姫物語。
英語、ドイツ語、フランス語で刊行され、逆輸入的に日本語版が発売されたという異色の作品です。
白雪姫の髪からはその黒と溶け合うようにして一羽のカラスが顔を出し、冷酷な継母は冷たい鱗をまとう魚の頭を持っていて―
暗喩的な描写が、グリムの原作に近いどこか不気味な空気をまとった童話世界を描き出し、一方で、オリジナリティあふれるデザインの七人の小人が、そうした世界観のなかでかわいらしく異彩を放っています。
この物語で特に印象的なのは、黒はもちろん白や赤い色でも描かれるカラスの姿です。
白雪姫といえば、浮かぶのは赤いリンゴや白雪姫の純真なイメージ。
しかしこの作品では、白雪姫を、あるいは物語そのものを象徴するようにカラスがたびたび姿を現します。
白雪姫の清廉潔白でうるわしいイメージとは相容れないようにも思えるカラスですが、それがこの作品における白雪姫のイメージを独特で新鮮なものにしています。
子ども向けに手を加えられたマイルドで明るい白雪姫よりも原作に近く、少しショッキングな描写もあるので、その点留意が必要かもしれません。
漆黒のカラスとはかなげな白雪姫、魚の頭の継母、七人の小人……
だれも見たことのない、新しい白雪姫物語が楽しめる美麗の一冊。
(堀井拓馬 小説家)
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